――新品の真新しい制服に袖を通し、全身を写し出す鏡を目にする。男子用の制服を身に付けた自分に自分が言うのもあれだが、まあまあ男子に見えた。
今日から俺の新しい生活が始まる。そう考えれば普通楽しさが込み上げる筈がその俺の新しい生活の最大の目的となれば楽しさなど込み上げる筈もなく、
「……祓魔師、か」
元々見えるだけだった自分に祓魔師なんて道を選択する考えなどこれっぽっちも無かった。普通に学校行って、普通に就職して、出来たら家庭なんか持って…平凡な人生を歩むつもりだった訳だし。実際、祓魔師って悪魔払いな訳だから悪魔と戦うことは絶対あるだろう、謂わばそれが仕事なんだから。
「ほう、確かに男子に見えない訳じゃないですね」
「…ありがとうございます」
家の前で待っていればそれはそれは昨日のピンク色をしたでかい車が目の前で止まり中からあのピエロが出てくると途端に発した言葉がそれだ。これは素直に喜んでも良いんだろうか?
「荷物の方は後から送らせて頂くので、後は寮のことですが…」
ピンク色の車に乗り込みピエロの話を聞きながら窓から外の景色を眺める。遠のいて行く我が家に名残惜しさが止まらない。荷物はどうやら送って貰えるみたいで貴重品など必要な物が入った意外にも軽い鞄を膝の上に置く。
「…寮ってもしかして何人部屋とかですか?」
「ええ、そうです」
「………」
どうしよう、頭の中にはこの言葉しか出て来なかった。寮だと言うのだからそりゃあ何人で一部屋が当たり前であって今自分は男子生徒な訳であって勿論女の子となんか同じ部屋になれる筈もなくて、つまり…そう言うことは
「……男子と同じ、部屋」
「に、普通ならなりますね」
「……」
「…ですが、貴女は仮にも女性だ。特別に一人部屋にして差し上げましたよ」
「え、ほ…本当ですか!?」
「ええ、本当です」
何だか無駄にと言うか何というかピエロは意外に配慮が出来ることが分かった、仮にもは本当に余計だが…。取りあえず男子と同じ部屋は免れたが、出来れば女の子と同じ部屋が良かったけど今の自分は男なんだからそれはそれで許されないことだけど、一人か…
「…それと貴女には塾に通って頂きます」
「…え、塾…?」
「ええ、祓魔師になるためにまずは祓魔訓練生となって悪魔祓いを学んで頂きます」
「……祓魔訓練生、」
「そして、塾に行くために貴女に塾の鍵を差し上げましょう」
「…鍵、ですか?」
塾に通ってもらうだとか祓魔訓練生だとかそんな意味の分からないことを突然言われても理解出来ず頭が付いていけない俺にピエロは小さな鍵を差し出してきた。どうやら塾の鍵らしいが塾に鍵なんているんだろうか?
「…何時でも何処の扉からでも塾へ行ける便利な鍵ですので、無くさないように」
ピエロが言った何時でも何処の扉からも塾に行けるなんて本当にあるのだろうか?魔法のようなその鍵、確かに無くしちゃ塾にも行けないだろうから首から下げれるようにしようと決める。
「塾は今日からですので始業式が終わり次第その鍵で塾に来て下さいね、一年生の授業は一一○六号教室ですので遅れずに」
「…あ、はい」
話が着々と進んでいく中で必死に理解しようとするがそう簡単にもいかずにいればどうやら学校に着いたようでピンク色の車から降りれば学校とは思えないほどの大きさに吃驚する。これだけ大きい学校なのだから入学生も半端ない、周りを見れば人、人、人と人の塊だ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。え、とあの…ありがとうございました、ピ…じゃなくて、えーと…」
「メフィストフェレスです」
「ああ、メフィストさんありがとうございます」
「いえ、それでは私はまた迎えに行かねばならないのでしてね」
「…迎えに?」
「ええ、貴女と同じ塾の生徒ですよ」
それでは、とあの長いピンクの車に乗り込んだメフィストさんはまた誰かを迎えに行ってしまった。同じ塾の生徒らしいが…その人は自分から祓魔師になりたいが為に塾に通うんだろうか?と言うよりメフィストさんを危うくピエロ呼ばわりしてしまいそうになった。メフィストフェレス、何だか不思議な名前だな。なんて思いながら混雑する人に飲まれながらも始業式が始まるであろう場所へと向かった。