――視界全体に青い炎が映し出されていた。
闇に煌めく酷く綺麗な青い炎はあの日、俺の全てを焼き尽くしてしまった。
だが、何もかも失ってしまった俺に沢山のものを授けてくれた藤本さんは俺の後見人であり大切な人だったのだ、なのに
「…う…そ、ですよね?」
「嘘?私が何故そのような嘘をつかなくてはならないのですか、藤本神父は青焔魔によって殺されました」
ガツンとまるでトンカチにでも頭を殴られたような衝撃が走った。そんな、まさか…吐き気が俺を襲いゆっくりと膝を落とせば目の前の"藤本さんの友人"がにやりと妖しく笑った。
「藤本神父が居なくなった今、貴女の後見人は私となります」
…この人は一体、何を言いたいんだろうか?幾ら"藤本さんの友人"だからと言ってピンク色をしたピエロみたいな人が自分の後見人とは失礼だが考えられない。すると俺の言いたいことを察したのかちょいちょいと一々俺の目の前で人差し指を振りゆっくりと口を開く。
「これは藤本神父が言いなさったことですので、」
強制、と後回しで言われていることが分かった途端に俺は一瞬にして諦めが脳裏を横切った。反抗してもこの可笑しなピエロのこと…何をされるか分かったもんじゃない。
「…俺にどうしろ、と?」
「貴女には正十字学園に通って頂きそこで祓魔師としての力をつけてもらいます」
「……祓、魔師」
俺の言葉によくぞ聞いてくれたと言わんばかりにピエロはにまりと笑みを深め高らかに声を上げた。正十字学園…お金持ちが通う私立学校だ。そこで祓魔師になれと目の前のピエロは言った。
祓魔師、悪魔払い…藤本さんも祓魔師だった。そしてあの夜から俺を助け出してくれた。確かに自分には悪魔が見えるがそれは見えると言うだけで飛び抜けた才能も何もないと言うのにこんな俺が祓魔師なんて、なれるのか…正直なれるなんて思えない。
「…俺が祓魔師なんか、」
「なれます」
「……っ、!」
「貴女には素晴らしい才能がある、きっと素晴らしい祓魔師になりますよ」
藤本神父さえ超える…そう後から小さく付け加えたように口を開いたピエロ。全てがお見通しかのように先々と話されてしまう、素晴らしい才能?今まで悪魔が見えた"だけ"の俺に?藤本さんを超える祓魔師なんて、
そんなはずは――
「……」
「残念ながら貴女に拒否権と言うものはありません、明日朝に迎えに来ますのでその時にはこれを」
着々と確実に進められてゆく話に正直頭が付いていけない状態だった俺に最後の追い討ちを掛けるかのようにピエロは口を開いた。拒否権がない…幾ら考えても進む道は一つしかないと言うことが分かる。無言を貫く俺に差し出したのはあの正十字学園の女子用の制服
「…分かりました、だけど一つ条件があります」
「ほう、条件とは何です?」
「正十字学園では、男子生徒として受け入れてはくれませんか?」
男子生徒、一応女である自分が苦手に当てはまる男子に何故成り変わるのか…祓魔師になるのならこんな苦手克服しなければならないと思うし、自分の為でもあった。だから、無理なお願いだろうが少しの期待を持って言ってみたが…
「…良いでしょう!」
「え、良い…んですか?」
「ええ、祓魔師になるのに性別は関係ありませんしね」
「…あ、ありがとうございます」
「それでは、これを。正十字学園では寮生活となりますので荷物の準備を済ませておいて下さいね」
意外にもあっさりとOKを貰え唖然としていれば何処から取り出したのか分からない男子用の制服を差し出され受け取るのを確認すると後ろにあったピンクの車に乗り込みまるで嵐のように過ぎ去っていった。
「…寮、なのか」
あのピエロが言っていた寮生活と言うことは暫くこの家には帰って来られないと言うことで、言わば自分が育って来たこの家を離れなきゃならないと言うことに名残惜しい気持ちが溢れ出した。
「……藤本、さん」
この家を用意してくれたのは藤本さんだ。あの家はもう住めるような状態ではなく、一人で寂しいだろうがと言いいながら藤本さんは此処を俺に与えてくれて、良く顔を出してくれた。
"青焔魔に殺されました"何度も何度もあのピエロの言葉が脳内で繰り返された。繰り返される度に吐き気と涙が溢れ出し止まらない。どうして、なんて言えなかった。
「…っ、藤本さん…」
受け止められていないこの真実を自分は何時か受け止められる日が来るのだろうか?藤本さんが亡くなったこの真実を受け止めるなんて、――――出来るのだろうか?