―――少女はまるで死んだように眠っていた。


暁のアジトとも呼べる洞窟に場違いな少女が一人眠っている。アジトに着き少女を下ろしてから鬼鮫は何処かへ行き、自分はたった今リーダーに話を付けてきた。

最初は当たり前で許しを得られなかったが珍しく俺が引かなかったからか仕方なく許しを得た、だがそれなりに条件は付いている。



面倒は俺が見ることそして暁の邪魔になるのなら、







「………」

―――己の手で殺ること。



覚悟は出来てあった、何時でも殺せるようにと。戸惑いも迷いも何もかも全て捨てた。




「……生きているのっ…?」

不意に聞こえてきた声に肩が揺れる。気配を消してあの少女が眠っていた場所を見れば少女は起きており震えたように自らの肩を抱いていた。


――正直、最初は行くのを戸惑いはしたが彼女が気になり表情を変えまいと表情を作りあげ少女の前へと足を踏み出した。


「……起きたか、」

「……っ!」

俺の声にびくりと肩を揺らした少女は恐る恐ると俺を見た。揺れる漆黒の目は俺を写している。酷く怯えたように、

「………っ…」


だが、ガタガタと震える身体に鞭を打つようにして少女はゆっくりと口を開いた。


「……あ、なたは…誰?…」


震えた声に揺れる瞳に俺はゆっくりと少女に近付きそっと壊れものを触るように少女の頭を撫でた。


「…俺はうちはイタチ、」

「……うち…は、イタチ…」

オウム返しのように続けた少女は震えが止まったかのように思えたが次の瞬間、何を思い出したのか目を見開きバチン、と俺の手を払いのけ足を引き吊りながら洞窟の端へと逃げた。


少女は俺の手を払いのけたことに俺が怒ると怯えたのだろうが俺に怒ると言う選択肢など初めから無くて、





「………すまない、」

ただただ寂しい気持ちが俺の心に渦巻いていた。





「……わた…しは、死ぬはずだった…なのに!」

驚いた顔をした少女はすぐに声を上げた。か細くて…ふ、とあの夜の幼い自分の弟が少女に重なった。


「…あなたのせいで死ねなかった…!!私は死にたかったのに!」


声をあげた少女は傷だらけだと言うのにも関わらず先程まで引きずっていたはずの足を立たせた。


「…ど…してっ…私は…っ!!」

少女は泣きそうな、いや…泣いてしまうのを必死で止めた表情で声をあげる。一層泣いてくれ、とふ、と思う





「…イタチさん、この女の為にも殺して差し上げましょうよ」


俺と少女しか居なかった空間にふ、と聞き慣れた声が響き渡る。その声に自分でも無意識の内にため息を吐き出す。

「…鬼鮫、」

「……っ!」


蝋燭の光が行き届いていない場所からゆっくりと姿を現す暁である自分のパートナーと言える人物。突然の声に肩を揺らす少女はゆっくりと鬼鮫の姿に目を写した。


「……鬼鮫、よせ」

「どうしてです?こいつが望んでいることをするまでですよ」

そう言って鬼鮫は俺の言葉も聞かずに少女へと大刀を振りかざした。止めようと歩を進めるもののそれよりも先にあの少女が鬼鮫へと斬り掛かかる。




―――――ガキィィン、

だが、即座に鬼鮫は己が持つ大刀で防ぎ凄まじい音が洞窟内に響き渡る。


「………不意打ちですか」

「………」

「…舐めちゃいけませんね、」

クツクツと楽しそうに鬼鮫は笑うが少女はそうではなかった。傷が痛むのだろう、必死に歯を食いしばり激痛を堪えている。それを知って尚、力を加える鬼鮫に耐えきれないと判断したのか、その場から身を引いた。


その少女が居た地はえぐり出されている、あの少女には叶いのない力。身を引いたのは正しい選択だが、少女は怪我人だ。



「……イタチさん、」

「よせ、鬼鮫。一度言ったはずだ……」

鬼鮫が大刀を少女に振り落とされようとした瞬間に制止をかければ納得いかないような表情をした鬼鮫。だが、俺も退くわけにはいかない

「……仕方ないですねェ、」

暫く静まり返った洞窟に諦めたような声が響いた。その後に大刀を直し、鬼鮫は洞窟内へと姿を消す。先ほどまで、解いていた写輪眼を発動させた目で後ろにいる少女へと目を向ければ、しっかりと少女の目には恐怖が写っていた。


end