――――遠い遠い夢を見た。

ただただ無邪気に笑っていた自分と優しかった父と母。何もかもが幸せだったあの日、戻りたいと何度も思った何度も願った。


…だけど、叶わなかった。





「………っ…ぅ…」

突然の身体の痛みにゆっくりと目を開く。目の前には殺風景な天井、何処かの洞窟のようだった。



辺りを見渡しながらゆっくり、ゆっくりと身体を上げればゆっくりながらも身体は小さな悲鳴を上げる。




「………っゔ…っく…」


脇腹を抑えれば何故か包帯を巻かれあちこちの傷もちゃんと包帯を巻かれていて――――





「……そうだ、私…」

不意に傷を見れば思い出さされるあの時の出来事にサァ…っと顔色が青くなるのが感じられた。

嗚呼、私はあの時死んだはずなのに…。何故、私は―――










「……生きてるのっ…?」

自分の身体を腕で抱き締め俯く。あの時、確かに私は死んだはずだった、死ねたはずだった。

傷が痛む、それは紛れもなく私が生きている証だ。



「……起きたか、」

「……っ!」

洞窟に響く私以外の声にはっとその声がする方へと目を向ければ黒い布地に赤い雲が描かれた衣を羽織った男だった。

男はゆっくりと私に近付き蝋燭に照らされてゆきその姿が明らかになってゆく、


「………っ…」

蝋燭に照らされた男は真っ黒な黒髪に女のように整った顔で何よりその男の赤い眼に飲み込まれるようで。私は目が離せなかった

「……あ…なたは、誰…?」

漸く発せられた言葉は余りにも情けなく震えていた。身体が震える、怖いと初めて感じた。


そんな震える私に気付いてか男はゆっくりと私に近付いてまるで小さな赤子をあやすような優しい声で言った。


「…俺はうちはイタチ、」

「……うち…は、イタチ…」

"うちはイタチ"と名乗った男の言葉をオウム返しのように言葉にすれば優しく頭を撫でられた。



怖がらなくて良いとまるで母みたいな暖かさ、だけど信じられなくて私はその男の手を払いのけ洞窟の端まで足を引き吊りながら逃げ出した。


「………すまない、」

なのに、男は私の行動に怒ることもせず悲しそうに謝った。初めてだった、こんな人は。


「……わた…しは、死ぬはずだった…なのに!」




私は声をあげた。周りなんて気にも止めなくて、男の優しさすらも踏みにじる私は何て非道なのか。


「…あなたのせいで死ねなかった…!!私は死にたかったのに!」

死ねなかった理由を男に擦り付ける、結局死ねなかった理由は私にあると言うのに。


……何処かで生きていたと安心した自分が居た。



「…ど…してっ…私は…っ!!」

泣くものか、と私は目に溜まりそうな涙を抑える。男は何も言わない、一層殺してくれたら…良いのに。




「…イタチさん、この女の為にも殺して差し上げましょうよ」

「……鬼鮫、」

「……っ!」

怒鳴っていた私は今まで気付かなかった為突然の声にびくり、と肩が揺れる。蝋燭の光が届いていない方からゆっくりと現れたのは鮫のような顔をした大きな男、

"鬼鮫"と呼ばれた男は私を見るなりその背に持つ大刀を私に突きつける。嗚呼、私はこの男に殺されるのか


「……鬼鮫、よせ」

「どうしてです?こいつが望んでいることをするまでですよ」

大刀を私に振りかざしながら大きな男は言った。止めようとしたあの男の言葉なんて聞きもしないで、


近くなった男の額に私は必然的にも目がゆく、額宛てには己が付けたであろう抜け忍の証に無意識に私は身体が動いていた。





―――――ガキィィン、


凄まじい音が洞窟内に鳴り響く。音の原因は紛れもない私が向けた刀と大きな男が防いだ刀だった。

「………不意打ちですか」

「………」

「…舐めちゃいけませんね、」

クツクツと面白そうに笑う男は楽しそうに大刀に力を入れてゆく為私は危機一髪で引けばそこまで私が居た地はえぐり出されていた。

「………っ、」

「傷が痛むのでしょう?」

ズキズキと痛む腹の傷に私はたらりと汗を流し自然にも顔が歪む、そうすれば男は気付いたように口にした。

楽しそうに大刀を握り締めた男は私へと大刀を振り落とそうとしたが目の前にあの男が現れたことで止まった。

「……イタチさん、」

「よせ、鬼鮫。一度言ったはずだ……」

静まる洞窟内に私の目の前に立つ男の声だけが響く。その声は先ほど私が聞いた声ではなく冷たい声。人を殺せそうな、そんな声


「……仕方ないですねェ、」

そんな声で言われたにも関わらず大きな男は大刀を背負い洞窟内へと消えて行ってしまった。

行ってしまった大きな男が消えれば私はゆっくりと男へと目を向ける赤い目で見下ろされ知らず内に私は息を呑んだ。





end