籠の鳥 2

「…っ、くぅ…!」
「エルフのくせに、生意気なんだよルーフェウス。」
「お前みたいなエルフは、こんなところに来る前に、異民族区で死んでればよかったんだよ!」
「なんとか言えよ?泣いてごめんなさいって謝れば、許してやるぜ?」
「…俺に、非があるとは…思えない。規則違反は…君達、だろ?」
「規則?悪いな、そんなの覚えちゃいないんだよ!!」
 気づけば、冷たい床と接吻を交わし横たわっていた。重い身体を引き起こし、乱れた髪を指ですく。侮蔑するようなテンプルナイトの視線、どうも、彼が親切にも槍でつついて起こしてくれたようだ。教会から派遣される彼ら監視役は、自分たちへの規則違反には厳しいが、魔道士同士のトラブルに、おせっかいにも首を突っ込み助けてやろうなどとは思わないらしく、今日の出来事も、どうせ何かのネタに使われるに決まっている。切れた口端をぬぐい、部屋へと戻ることにした。
こんな扱いには、慣れている。閉塞した籠の中、フラストレーションの矛先は、いつだって自分達(エルフ)に向けられることが多い。忌み嫌われる魔道士と知れた瞬間、親・友人・外の世界から切り離され、皆強制的にここへと連行されるのだ。自由を奪われた喪失感・愛情を失う絶望感を、外を全く知らない自分が理解することはできないが…彼らは、外の世界の常識をここにも当てはめることで、無くした物を埋めようとでも言うのだろうか。サークルでは、もちろん性や種族による差別を禁止していた。しかし、ここがある意味脱出不可能な牢獄である以上、諦められない者にとっては、やり場のないフラストレーションは溜まり続けるのだ。

「ルーフェウス、やっと見つけたぞ。どこにいたんだ?」
「…テンプルナイトの居ない場所だ。」
「それは面白い冗談だ。そんな場所、どこにもないだろ?その様子じゃ、また何かされたのか?」
「ジョワン、何か用があって引き止めたんだろ?」
「ああ、筆頭魔道士が呼んでいた。なにか問題でも起こしたか?」
「まさか。」
「だろうな、筆頭魔道士が自分の”導師”だなんて、お前くらいだからな。」
「筆頭魔道士は、見習い全員のことを気にかけてくれているさ。待たせていると悪いから、早く行くとするよ。」
 見習いの住む雑然とした喧騒に満ちた薄暗い部屋とは違い、試練を乗り越え正式にサークルの一員となった魔道士の住む上層は、天窓から挿し込む光もあり、わずかだが空も見えた。魔導師たちの個室が並ぶ上階の奥に、筆頭魔道士の部屋があった。
「筆頭魔道士?」
声をかけると、刺繍が織り込まれた上質なローブに身を包む、ヒゲを蓄えた壮年の男性が振り向いた。
「来たか。…しかし、遅かったようだね。」
彼は、こちらに近寄ると、すっと右手を差し出し、少し腫れた左頬に手を当てる。


[ 3/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]








Material by
ミントBlue




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -