月に住む人 2

「若、あの二人、式神でしょうか?」
「多分、そうやろね。ん〜、まだ小さい女の子って聞いてたんやけど、普通、ああゆう妖かしは気難しくて、なかなか仲ようなれんもんなんやけどね。会うのが楽しみやわ♪」
浮かれる主とは対照的に、邪悪とされる黒龍を式神とする術者への思いを巡らせる。空が茜色に染まる頃、自身の館に戻ってきた重信と凩の2人が門をくぐると、入り口で篝火と談笑する小柄な後ろ姿を見つけた。
「噂をすれば、重信が帰ってきた。早かったじゃないか、可愛いお客さんがお待ちだよ。」
くるりと振り返ると、長い金色の髪が夕陽に煌めいた。ペコリと流麗なお辞儀をして、彼女は微笑む。
「君が、白蓮ちゃんやろ?会えて嬉しいわぁ。」
「重信様、ですか?。」
彼女は、夕日に照らし出された重信の姿を驚いた様子でじっと見つめる。
「ほら、僕の勝ち。フフ、どんなお願い聞いてもらおっかなぁ〜。」
「あっ?!そうでしたね、私の負けです。私に叶えられることなら、何でもおっしゃってください、篝火様。」
「ちょお、何の勝ち負けなん?」
「え?重信を見て驚いたら、僕の勝ちって賭けをしてたのさ。」
「フフ、負けてしまいました。まさか、重信様が同じような姿をしていらっしゃるとは思いませんでしたから、驚いてしまいました。」
「ああ、白蓮ちゃんとおそろいの髪やな。この国では、珍しいもんなぁ。」
「この国では?…では、重信様は、月に帰ったことがあるのですか?」
「月ぃ?」
「私の母は、月に住まう父の元に帰っていったのです。…私は両親の記憶がありませんので、重信様が月の世界をご存知でしたら、教えていただいたかったのです。」
青い瞳を輝かせ、顔を見上げる少女を前に、少し考え、それからニカッと笑った彼は、得意そうに話をする。
「そうやなぁ…月はなぁ、白蓮ちゃんみたいな姿した子がいっぱい居るんや。むしろ、この姿のほうが普通なんや。髪の色も瞳の色も、違う人がぎょうさんおるから、皆気にせんし、月の言葉はこことはちぃと違うから、歌うとうてるみたいに聴こえるかもなぁ。変わった楽器やら、空に届きそうな建物やら、いっぱいあるんやで。」
「そうなのですか?!この姿が普通、なのですね。」
胸の前で両手を重ね、じっと瞳を閉じる少女。少しの嘘に、異国の真実を織り交ぜ話す。
…重信本人が、ずっとこの姿のことで差別され忌み嫌われる生活をしていたから、彼女の気持ちは痛いほど分かる気がした。
「決まった!」
唐突に、篝火がそう言った。
「舞いが見たいなぁ。睡蓮ちゃんの舞い。な、重信、中あがってもらって越天楽でも舞ってもらおうよ。それと重信、彼女の名前、白蓮じゃなくて睡蓮だから。」
「ふぁっと?!それは…かんにん、睡蓮ちゃん。」
「いいえ、素敵なお話を聞けましたから、気にしていません。重信様にも、お話のお礼に舞をお見せしたいです。」
睡蓮は、懐から扇を取り出すと、再び優雅に頭を下げる。



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