逢魔が時 1

「…なるほど。数日前、京(ミヤコ)に戻った国司を殺したのは、貴方達の仕業か。」
晴明は、自らを襲った妖かしを前に、凛とした声で問いただす。それにしても、黒龍と宮守(ヤモリ)とは…陰陽寮においても、彼らほどの式を操れる陰陽師など、そうは居ない。彼らと契約し式として使役するには、かなりの才覚が必要なはずだ。自分に敵意を向けるものがいなくはないが、さて、誰が放ったものか…。
「誰の命でやってきたのか、探らせてもらおうか。」
「…クックック、無駄だ。俺達は、式神などではないからな。」
黒龍が、首をもたげて意地悪く哂う。
「では、何故私の命を狙う?」
「所詮は男、だからだ。」
力をほぼ使い果たし、ただのイモリに戻ってしまった宮守(イモリ)が、吐き捨てるようにそう言った。
「人間の男などに、手を出されてたまるか。アイツは俺の妾にすると決めたんだ。鼻の下伸ばした下衆な輩など、この俺が喰うてやる。」
「ちょっとまて、黒耀!誰が貴様に渡すなどと言った?俺の嫁だ。」
「ハッ、貴様のように雅を解さぬつまらん者が、何を図々しいことを!」
「貴様は雅を解するというより、ただ遊び呆けているだけだろう。学がない阿呆が。」
「泡沫、貴様〜!だいたい、今日は貴様が脆弱だから負けたのだ!」
「何を言う、誰の策のお陰でいつも勝てたと思っているのだ?今日負けたのは、お前が人の話も聞かず暴走したからだ!」
ギャアギャアと言い争いを始める妖かしの2人…。あまりに騒がしいので、このまま封じようとした時、表に来客が来たことを式が告げる。

「あなたが、安倍晴明様ですね。私は、白拍子の睡蓮と申します。」
まだ幼さが残る少女は、そう言って深く頭を下げる。それにしても、奇異な容姿のせいか、どこか人間離れしている印象を受ける。金糸のような長い髪に翡翠の瞳、薄く引いた唇の紅が艶やかで、歳若いというのに、その所作は、並の遊女より色気があった。
「私、その…鬼の化身だと言われ、ここに行くよう命ぜられたのですが…。」
「…そういえば、鬼を祓えとかなんとか、言われていたか?」
「私を屋敷へ呼ぶと、禍が起こると言われて…数日前、声がかかり尋ねた方が、物の怪に殺されたとのことで…。」
少女は、顔を曇らせる。
「私のようなものは、誰かの庇護を受けねば京にはいれません。私は身寄りも居ないので、白拍子として囲ってくださる方が居なければ、ここを出るしか無いのですが、不吉だとされてしまい…あの、私、やっぱり憑物が憑いているのでしょうか?」
「憑物…。」


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