追憶の情景 2

「うぅ……。」
「いつも偉そうな女だが、今日は黙るしかないようだな?」
「ハッ、…影に隠れてる分際で…偉そうに、お言いでないよ…っ!」
衝撃に、再び身体が弾き飛ばされた。岩に叩きつけられると、人化の術もとけて、大蛇の姿を晒してしまった。
転がる籠、あぁ、どくだみも木苺も台なしじゃぁないか……。
「その白い鱗が並んだ皮、剥がしてかざれば綺麗だろうぜ。」
そうなのだ、この男が好いているのは、大蛇である私の身体。もとより殺すつもりなのだ。
「あぁ、……永遠に、呪ってやるからね。……赦さないよ、祟って…やるわ。」
「そうゆう泣き言は、人間相手に言うんだな。」
下品な笑顔。あぁ、最悪だ。殺されるにしたって、もっといい男が相手だったら良かったのに……。
私は目を閉じた。最後に見る光景が、あの男の顔かと思うと我慢がならなかったし、死ぬのも正直怖い。
……しかし、いくら待ってもその瞬間は訪れない。
不思議に思い瞳を開けると、両手に炎を纏い、揺らめく炎のような髪をした、鴫の涼しげで端正な横顔があった。
「…ありがとう。強いんだねぇ。」
「雹が、遅いから心配してる。」
「ああ、ちょっと余計な物まで集めてたからさ」
転がった籠をひょいと尻尾で掴み上げると、その辺に散らばった草や木の実を拾い集める。
「木苺かい?」
「あぁ、アンタ、木苺好きかい?」
「嫌いじゃないよ。」
「なら良かった。」
口でくわえて集めた木苺を、ポイっと籠に放りこみ。手伝う鴫の横顔をもう1度見た。
「ねぇ、鴫。」
「?」
「すぐに笑えとは言わないからさ、頼むから、そんな死人みたいな顔をしないでおくれよ。雹も私らも、なんかの手伝いはできるからさ。…こんな成りじゃ、説得力無いけどさ。……いい男が台なしよ?」


「こんな時に思い出すなんて…やっぱり、もう死期迫るってやつかしらねぇ。」
白菊姫は、静かに眼を閉じる。
「もしもし、大丈夫ですか?」
「睡蓮、こんな草むらに近づくと蚊に刺されるぞ…って、なんだ、デカイのが伸びてるな。」
「死にかけの白蛇じゃねぇか、喰っちまおうぜ♪なぁ、泡沫?」
「駄目ですよ、この方は助けます。ほら、黒耀、運んでください。」
「チッ、しょうがない。なら、一足先に帰ってるぜ。」
覗き込むのは、山吹色の髪をした、淡く青い瞳の少女。
「また、酔狂な人が現れたのかねぇ……。」
竜の口に咥えられての移動は心地いいものではないが……これも何かの縁なのか。白菊姫は、眼下に京の街を見ながら、心地良い風に身を任せた

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