嫌いな理由 1


「よりによって、あんな奴の所に!」
ダン!と机を叩くレムオン。
やり場のない怒りと不満、そして一抹の心配と……こんな事なら、もう少し先に手を打つべきだったと今更後悔する。
「恐れながら、今回ばかりは、人員配置を事前に知っていたところで、エリス様の計略は防げなかったと思いますよ。」
眉間にシワを寄せる主を前に、セバスチャンはルーマティーを差し出しそう言った。
「そんな事はわかっている。王都守備隊に配属させようとした所で、リューガの姫は武勇に優れると評判で、騎士として叙任されているにもかかわらず、前線を恐れ国を軽んじている等と言われるに違いないからな。それだけでなく、敵と通じたスパイではないかと要らん嫌疑をかけ追い込んでくる筈だ。」
「では、やはり信じて待つしか無いのでは?お怒りになっても事態は好転しませんよ。むしろ、この混乱に乗じて彼女を暗殺しようなどと考える不逞の輩がいるやも知れません。そちらに気を配られてはいかがですか?」
「セバスチャン。お前の意見は、いつも正論で的確だな」
「恐れ入ります」
その褒め言葉が嫌味であることを十分承知しているセバスチャンは、恭しく頭を垂れる。
「ともかく気分が悪い。夕食までしばらく私室で休む、一人にさせてくれ。」
「承知いたしました。」


レムオンは私室に戻ると、上着を脱ぎ、髪を結うリボンを外した。
「ゼネテス……。」

それは、もう遠い昔。
『では、失礼する』
『レムオン様、もう行ってしまうの?』
『当たり前だ。リューガ家とファーロス家は、敵同士なのだから、な』
『それはお母様の都合です。ティアナには関係ありません』
『俺の都合でもある。……まぁ、噂にならない程度になら顔を出すさ』
 姫の部屋をを出て、空中庭園を抜ける。夕暮れに赤く染まる庭園に人影はない。
少年……レムオンは、ふとピンク色に咲くバラの前で足を止めた。
日中、ティアナ王女が眺めていたのはこの花だっただろうか。
そっと花弁に指で触れると、バラの花は、急速に萎れハラハラと散っていく。
それを見たレムオンはつぶやいた。
『触れては、いけないのだ……』
その瞳は、悲しげに暗く沈んでいた。
『あれ、レムオンちゃん、どうしたんだ?浮かないカオだな?』
『!……ゼネテスっ!』
『そんなに睨むなって、カワイイ顔が台無しだぜ?』
『貴様、馬鹿にするな!だいたい、王宮に寄り付かない貴方が、どうしてこんな所に?』
『あぁ、伯母貴に食事を食わせてもらってたのさ。伯母貴の手料理は美味いんだぜ、レムオンちゃんも今度一緒にどうだ?』
『毒を盛られてはかなわん。それより!人の名前にちゃん付けするな!』
どうにも、この男はいけ好かない。
レムオンが睨んでも、ゼネテスはヘラヘラとした笑顔で彼を見ている。
それがまた、不満だった。
『ここに居るってことは、なんだ、デートだったわけだ』
『は?』
『ティアナに逢ってたんだろ?まぁ、レムオンもそんな年頃だもんな』
『ふ・ふざけるなっ!誰がティアナなんか!大体、女なんかに興味はない!!』
『え、じゃあ男が趣味なのか?』
『違う!!』


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