金銀妖眼ヘテロクロミア 4

「初めて会った時の事、覚えてる?」
「ああ、俺に関わろうなどと酔狂な女が現れたのだからな。」
「それを言うならレムオンだって、記憶がない正体不明の女を拾おうなんて、普通思わないわよ。」
ケテルは、ぽんと本を机に置き、足を抱えるようにして背を丸めた。
「私には、何もかもが新鮮だし不可解。明るい陽射し、土の香りとか風の音とか、世界にこんなにも大勢の人がいて。」
「……。」
「私は、どうやら他の人とは見た目が違う。仲間に言わせると、思考にもズレがあるらしいし。…私は、誰なんだろう?」
ヘテロクロミアの瞳が、まっすぐにレムオンをとらえる。

「……ねぇ、レムオン。私、本当に此処にいていいの?」

「帰ってこい、と言ったはずだ。俺の、妹なのだから。」

深緑の森の中、野党と対峙する緊迫した場面に、何の躊躇もなく一振りの剣を携え躍り出た少女。他人など信用するに値しない、そう信じていたレムオンだったが、不思議と彼女を身近に招き入れることに疑念を抱かなかった。
『記憶喪失というわけか。』
『うん。生活のしかたとかは分かってる。でも、それ以外戦い方や魔法についてしか分からない。自分が何者で、どんな家族を持ってるか…そういったことの記憶は、一切無いんだ。こんな得体のしれない冒険者を簡単に妹にしちゃっていいの?』
『構わん。障害になるようなら、迷わず捨ててやる。』
『記憶が戻って、いきなりレムオンに斬りかかるかもよ?』
『お前ごときに斬られるほど弱くない、安心しろ。』
『フフ、じゃエストにも頼まれたし、レムオンの力になってあげる。』

「前にも言ったが、お前が邪魔になるようなら迷わず捨てる。それに、お前が俺の妹という立場を好まぬなら、無理に此処に来る必要はない。そうでないなら…ここが、お前の家だろう?」

「…ありがと、レムオン。はぁ〜あ、明日で集中レッスンは終わりよね?今日みたいに、簡単なので頼むわ。」
「安心しろ、明日は俺直々にダンスのレッスンをつけてやる。」
「えぇー?私に社交ダンスまでさせるつもり?そんなの必要無いでしょ。」
「一つ聞く、俺が一度決めたことを変えるような男に見えるか?」
「それはもう、優しいお兄様は、私の意見に耳を傾けてくれると信じてるわ。」
「白々しい。明日は、覚悟するのだな。」

夕日に照らされる中庭に面した廊下を二人は歩く。偽りの兄の後ろを追いかける偽りの妹。きっかけが嘘であっても、そんなことはどうでもいい。今はもう、“家族”なのだから。
ヘテロクロミアの瞳は、嬉しそうに、輝く金の美しい髪をしたその後ろ姿を見つめていた。

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