金銀妖眼ヘテロクロミア 3

『ニーニーニー』
居間に居座る見慣れない子猫。純白の毛並みをした子猫は、人懐っこくレムオンの足もとにすり寄った。
「セバスチャン、この猫は?」
「ケテル様がお連れになったのですよ。飼う事に決めたから、ここで面倒を見て欲しいと言われて。」
「そうゆうのを飼うとは言わん。まったく、アイツは何処だ?」
「書庫におられるようです。」
「そうか、まだ教育係の世話になっているのか。」
「いいえ。」
「?」
「ケテル様は、リューガ家の歴史・ロストールの成り立ちについての講釈はすぐに理解されて、今は自主的に書庫にこもっているようですよ。」
レムオンは、足もとの子猫を抱き上げ妙に納得した。両目の色が違う猫…連れ帰るはずだ。子猫をソファーの上に下ろすと、レムオンは書庫へ向かう。

沈みかけた夕日は、ロストールを紅く彩り、窓から降り注ぐ光も穏やかに色づいている。広い書庫の片隅、使い込んだアンティ−クの机の上に、ランタンを隣に置き足を組みながら本を読みふけるケテルの姿があった。椅子ではなく机に座る彼女に、いつもならはしたないと怒鳴るレムオンだったが、夕日に照らされた彼女は、”人”ではないような…今にも蜃気楼のように消えてしまいそうで言葉を飲み込んだ。宮廷で、美しく着飾る女性なら毎日飽きるほど見ている。幼馴染のティアナも、誰もが光の王女と讃えるだけあり美しく…許されない想いを抱くには十分で…――。だが、この少女に対する感覚は何なのか?不覚にも、美しいと感じた。その存在を。
「何を読んでいるのだ?」
「レムオン。ふふ、魔道書よ。」
そう言ってかざしたのは、古代神聖語で書かれた古い書物。エストが集めたものだ。
「お前、これが読めるのか?」
「うん。不思議でしょ?私みたいのが、こんな高尚なものを読めるなんてね。」
「いや。そうでもない。」
レムオンは、手を伸ばし、ケテルの頬に触れた。色違いの瞳は、一瞬戸惑いの色を見せ、苦笑する唇が言葉を紡ぐ。
「ふふ、気でも使ってくれた?自分でも自覚してるのよ。薄汚い捨て猫には、不似合いな知識よねぇ。」
「そんなことは無い。」
断言して、見つめられる気恥かしさから視線をそらせ横を向いたレムオン。
「無能なやつほど、見かけに騙される。うわべだけ美しいものもいれば、本質が美しものもいる。…お前の拾ってきた子猫の話だ、お前のことじゃない。」
「ああ。ふふ、怒られるかと思ったのに。」
「猫一匹増えたくらいで、うるさく言うとでも思ったか?それに…アレを捨てれば、貴様は悲しむだろう。」
「そんな女に見える?」
「自分と重ねたくせに。」
くだらないよね、小さく呟き、ケテルは窓の外を見る。紅く染まる空の向こうに、何を見ているのだろう。人を惹き付ける輝きに満ちた瞳、それなのに暗く沈みこむような悲しみを湛えている。二人とも何も言わず、しばしの静寂が続いた。



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