金銀妖眼ヘテロクロミア 2

門をくぐると、少し肌寒い夜風が二人の髪を穏やかに揺らす。右方、王城の方から、一台の馬車がこちらに音を立てて向かってきていた。
御者が、小窓を開け、何やら乗客に語りかけたようだった。その馬車は、減速し門前のエストとケテル二人の前に止まる。金の紋章が描かれたその馬車の窓が開くと、ケテルも見たことのある男が顔を出した。
「これは、ファーロス大公。」
「エストに、ケテルと言ったか。なるほど、仲むつまじくやっているようだな。」
「こんな夜分までお仕事ですか?ご苦労様です。」
エストが、恭しく礼をする。ケテルも、続いて頭を下げた。
「もちろん、忙しい身なのでな。どこの馬の骨とも分からぬ情婦と遊んでいる暇は無いのだよ。」
「大公、ケテルは、僕たちのれっきとした妹です。今まで隠してはいましたが、今後はよくお見知りおきください。」
「ふん!まぁ、よかろう。小娘にしては、男を篭絡させる手腕に長けているようだ。ここに飽きたなら、わしのところに来てもよいぞ?飼い犬の花嫁にぐらいしてやってもよい。」
ニヤニヤと、下卑た笑みを浮かべケテルを見下すノヴィン。普段穏やかなエストも、流石に視線が鋭くなった。

「これは、ノヴィン閣下。我が屋敷に、何か御用か?」

よく通る、凛とした声が後ろから響いた。いつの間に来たのか、一分の隙もない冷徹な若き当主は、相手を見据えた。
「レムオン卿!?いや、二人の姿が見えたのでな。挨拶をしたまでだ。」
「そうでしたか?こんな夜分に、奥方を持つ貴方が親子程に歳の離れたわが妹を自らの元に招くような会話が聞こえてきたように思えましたが?」
「誰が、こんな気味の悪い瞳をした小娘なぞ!…いや、何でもない。妙な噂を立てられては心外だ。失礼する。」
分が悪い、と感じたのか、そそくさと馬車を走らせその場を立ち去るノヴィン。残された三人は、顔を見合わせた。
「助かったよ、兄さん。まさか、あそこまで絡まれるとはね。」
「フン。下衆な妄想には、よく働く頭をしているのだろう。」
「レムオン…ゴメンね。」
「何を謝る?」
「そうだよ、ケテルは、何も悪いことなんてしてないんだから。」
「私がもう少し…レムオンやエストみたいに華やかな美人だったら、あんな男に付け入られる隙なんて、見せずに済んだんだ。」
ケテルは、目を伏せ転移の魔法を唱える。その場の二人が声をかけるより早く、その姿はかき消えた。


普段は行かないスラムの酒場。不愉快な気分を紛らわそうと、酒場には不似合いなエイジティーを飲みながらお勧めの川魚の塩焼きをつついていると、何かが足もとにまとわりつく。
「ニーニ―。」
「ちょっと、私は、アンタみたいなのに餌食わせるようなお人好しじゃないわよ?」
「ニャウ、ニャウ。」
「すまないね。その子猫、最近店の周りに住みついちまって…。」
ケテルは、薄汚れた子猫の首をつまみ持ち上げた。
「…フン。マスター、この子捨て猫よね?」
「だと思うが…見たところ冒険者のアンタが、連れ帰る訳にはいかないだろう?」
「あてがあるの。それに…――。」
顔の前の子猫をじっと見つめながら、ケテルは言葉を続ける。
「たまには、ファナティックの気紛れに付き合ってやるのもいいかと思ってね。」
薄汚れたその子猫の瞳は、青と緑…ケテルと同じヘテロクロミアだった。


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