sweet 2

数日前。
「いくら詩を作りたいからって、化け物に食われるような無茶しなきゃいいのに。」
「今回も助けられたんだから良いじゃない。腕を見込まれての依頼は、報酬だっていいんだから。」
顔を出す、位の感覚でギルドに行ったにもかかわらず、休む間もなく救出の依頼を頼まれたケテルは、少々機嫌が悪かった。断る理由もないので依頼は引き受けたが、もう少しゆっくりする予定だった。そんなケテルをイーシャがなだめる。
「でも、確かに忙しいよね〜。救出依頼とか、命にかかわる重たい依頼ばっかだから、僕も疲れたよ。」
「だから、女だけで温泉!なんでしょ?」
「うん。」
ケテル・イーシャ・エステル・フェルムの四人は、服を脱ぎながらいつも以上に騒がしい。冒険に出てしまうと野宿も珍しくないぶん、皆はしゃいでいる。
ケテルにとっては、こうした“普通の女の子”的なノリが楽しかった。仲間にはまだ言っていないが、創られた存在の彼女は普通を知らなかったし、その輪に加わることは新鮮で刺激になった。冒険以外の服や美味しいお菓子の話で盛り上がる。どこの町の店員がカッコイイとか、男メンバーのダメ出しやら、彼女たちの話題が尽きることはない。
「あ〜、あったまる〜。」
「ほんと、街でウエイトレスだけやってた頃は、こんなにお風呂を心待ちにしたことなんてなかったです。」
「魔物とか倒してるし、変な臭いがついてそうで嫌になったりするよね〜。」
「あなたもケテルも魔法攻撃メインでしょ?それを言ったら短剣の攻撃がメインの私や、フライパンで敵を叩いてるフェルムなんてどうするのよ。」
「敵までの距離、近いですもんね。…それにしても、なんだか微妙な劣等感を感じるんですけど…。」
「?なによ??」
「あ、いえ何でもないです。…――私が小さい訳じゃないですよね…皆さんが標準以上なだけで…ブツブツ。」
「?」

『あの、ケテル様ですよね?!』

突然、後ろから名前を呼ばれて振り返る。そこには、見覚えのない少女が立っていた。
「えっと…誰?」
「やっぱり、本物なんですね!こんなところで竜殺しのケテル様に会えるなんて感激です!!私、ずっと英雄ケテル様にあこがれてて、ずっとお会いしたかったんです!!」
「私、別にそこまで大層なもんじゃないわよ。」
「そんなことないです!数年で大陸に名を馳せた凄腕の冒険者、ロストールの戦女神、竜をもひれ伏させる美しい術師、今や吟遊詩人は、皆ケテル様の英雄譚を歌いたがってるじゃないですか。勇者ネメアと肩を並べるほどの人物なのに。」
正直、こうゆうタイプは苦手だ。ケテルは、話を切り上げる口実を探したが…――。
「今は、レムオン卿が一緒じゃないんですよね?私、安心しました。」
「…安心?」
喜々として話す少女の言葉に、ケテルは眉をしかめ首を傾げる。
「ロストールの内乱でレムオン卿を救ったなんて聞いてたんですけど、やっぱり思いなおしたんだなって。ケテル様が闇の種族と一緒に居るなんておかしいですもん。」
「……。」
「ケテル様は勇者様でしょう?世界を救うために尽力されてる素晴らしい人が、ダルケニスなんかを庇うなんておかしいって思ってたんです。人の生き血をすすり糧にするような種族ですもの、討伐されて然るべき存在が、ケテル様の仲間だなんて信じられなくて。」
「やめて。私がレムオンと一緒に居ないのは、そんな理由じゃない。」
小声で、吐き出すようにつぶやいた言葉は、少女には届かない。彼女は、なおも言葉を続ける。
「闇と戦っているケテル様ですもの、正体が分かった以上は、いずれレムオン卿も退治してくれるんでしょう?」
「!やめなさい!!」
「そうだよっ!!ケテル、駄目だよっ?!」
「落ち着いてっ!!」
仲間が、三人がかりでケテルの前に立ちはだかった。今が入浴中で、ケテルが武器を持っていなかった事は、なんと幸運だったろう。得物が無いぶん、いくらかましだ。それでも、逆巻く風の刃は、少女の髪をバッサリと切り落とし頬に血のすじを流す。
「ひっ?!」
「私は、勇者なんかじゃない。…レムオンの敵は、私の敵。今回は見逃すけど、次に同じようなことを言ったら殺すから。覚えておいて。」
静かにそう告げる。ただ、凄まじい殺気は、先ほどの言葉が嘘ではない事を証明していた。そのまま温泉を後にするケテル。
仲間に、パーティを解散して数日休むと告げたのは、その後だった。


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