sweet 1

「…で、パーティを解散させてまでロストールに居る意味があるのか?」
「あるわ。」
リューガ邸、怪訝な顔のレムオンに対し、ケテルが楽しそうに答える。
「イーシャはジリオンと居たいって言ってたし、表どおりの酒場は忙しそうだったからフェルムが居た方が良いだろうし、アイリーンだって家にお母さんが待ってる。」
「他にも仲間は居るだろう?」
「春祭りだもの、レムオンと一緒が良い。駄目?」
「…――お前は、ずるいな。」
軽くため息をつくレムオン。リューガの変以降、彼女のパーティに加わり傍らにいたレムオンだったが、ここ1カ月近くパーティを外され待たされていた。
一人であることに不満など抱いた事などなかったが、ケテルの事を考えると、どうしても心中穏やかではなかった。確かに、ダルケニスであり人から忌み嫌われている自分が、英雄と誉めたたえられる彼女の横に立つのは不自然かもしれない。
だが、離したくないという想いは、かき消すことが出来なかった。まして、ケテルの周りにいるのがセラやベルゼーヴァならなおさらだ。嫌みの一つでも言おうとしたが、一緒に居たいなどとストレートに言われてしまっては、言葉をのみ込まざる追えない。
「お祭り、とかいっても何が嬉しいのかピンとこないんだけど…美味しいもの食べたり、踊ったりして楽しむんでしょ?レムオンとやりたいな〜って。」
「お前は馬鹿か?ダルケニスの俺が、人混みに出ていける訳がないだろ。それに、俺はこの街を壊した張本人なのだぞ?のこのこ出て行って楽しめるはずがなかろう。」
「インビジブル。」
「?」
「姿消してればいいんだし、ただ一緒に、少し歩きたい。それなら良いでしょ?」
色違いの瞳が、一心にレムオンを見上げる。思えば、あまり我儘を言わないケテルがここまで希望するのだから、断る理由もない。
「それなら、構わん。」
その言葉に、ケテルは嬉しそうにほほ笑んだ。

禁術レベルの魔法を簡単に操る彼女にとって姿を消す術など子供だましのようなもので、姿を消した二人は、行きかう人にぶつからないよう寄り添いながら、賑わうロストールの街並みを歩く。
未だ壊されたままで復興していない場所も残るロストールだったが、街は賑わい、笑いあう人々の姿があった。
「皆、楽しんでるね。」
「そうだな。」
「安心した?」
「…少し、な。」
どこまで見透かしているのか…――。クーデター以来の罪悪感が消えることはなかったが、今の街の様子に、ほんの少し癒された。
大樹のある噴水広場に戻ると、楽団が音楽を奏で、男女が手をとり踊っていた。貴族たちが踊るワルツとは違って、陽気なリズムに合わせたフォークダンスだ。
「そういえば、新年のパーティで、レムオンと踊ったこともあったわね。」
「あの頃は、お前がボロを出さないかひやひやしていたが。」
「私、ちゃんと妹として完ぺきだったと思うんだけど?」
「ああ、今となってはどうでもいいことだが。」
「レムオン。」
「なんだ?」
「…――妹じゃなくても、私、傍にいて良いよね?」
「妙なことを聞くな。…お前は、俺と居てくれるのだろう?」
「うん。」
ケテルはレムオンの片手をとると、その手を大事そうに両手で包み込む。
「お前、俺が離れている間に、何か合ったか?」
「ん?いつもと一緒、頼まれごとをこなすだけ。ただ…――。」
「どうした?」
「英雄ケテル、とかいうイメージが嫌なだけ。私は、世界の為に居るんじゃない。…救うための、道具なんかじゃない。」
「ケテル。」
「レムオンなら、私の我儘に付き合ってもらえるかなって思ったの。ううん、付き合って欲しかったの。」
「いつもエストの我儘に付き合わされているからな、我儘を言われることには慣れている。次は、何がしたい?」
ポンと、彼女の頭を撫でると、ケテルは嬉しそうにほほ笑む。



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