「ありがとう」を君に 2


「…――やっと皆帰ったか。」
「お疲れさまでした。」
全ての客が帰り、部屋で落ち着く事が出来たのは、深夜になってからだった。襟元のタイを緩め、レムオンは長椅子に深く座ると足を組む。
「心にもない言葉に礼を言い続けるなど、何かの罰ゲームみたいなものだな。」
「そうおっしゃらずに、中には本気でお祝いしている方もいらっしゃいますよ。特に御婦人方などは…。」
「侯爵夫人の地位に目がくらんでるだけの話だろ?口を開けばお慕いしているだのと決まったセリフばかり…――セバスチャン、アイツはどうしてる?」
「アイツ?」
「ケテルだ。」
「そういえば、お見かけしてませんが…。」
「ケテル、帰ってたんだ?僕、一度も会ってないけど。」
パーティが始まる寸前、リューガ邸に戻ってきたエストが、驚いたようにレムオンの方を見た。
「…書庫かもしれん。」
「私が様子を見てきましょう。」
「いや、俺が行く。人目につかぬよう大人しくしていろと言ったからな、ひょっとしたら本当に昼からずっと書庫に籠っているのかもしれん。」
「兄さん、それこそ罰ゲームだよ。」
「それなら、私はすぐに食事になるような物を用意してきます。」
足早に、書庫へと急ぐ。扉を開けると照明もつけられておらず真っ暗で、こんな部屋に人がいるとは思えなかったが、レムオンは暗闇に目を凝らしながら、ケテルがいつも座っている奥の机へと歩いて行った。すると、やはり机の灯りがともされていて、熱心に本を読んでいるケテルの姿があった。
「ケテル。」
「!レムオン、終わったんだ?」
「ああ。部屋の灯りくらいつけろ。」
「え?だって、ココだけ灯りがついてたら、誰かいるってバレちゃう。」
「別に潜伏しろとまで言ってない。」
「そうだったんだ。」
「ずっと、ここに居たのか?」
「一度部屋の方に行ったけど誰もいなかったし、うろついて見つかると迷惑だろうからここに戻った。」
ニコリと微笑む。それに対してレムオンは、複雑な表情をみせた。
「腹も減っただろ?セバスチャンが何か用意しているから、部屋へ行くぞ。今日は、エストも帰ってきているし、お前を待ってる。行くぞ。」
「行くって、レムオン、灯り消したら真っ暗で何も見えない。」
「手をひいてやるからついてこい。」
そういって、レムオンがケテルの手を取った。こんな灯りのない暗闇の中を普通に歩ける事に感心していたケテルだったが、ふと思い出したようにレムオンに告げた。

「レムオン、ありがとう。」

ぴたりと足が止まる。
「礼を言われるような事をした記憶がないが?」
「誕生日、なんでしょ?レムオン、別に祝われても嬉しくないって言ってたから。でも、私はレムオンが生まれてるって嬉しいと思うから。…だから、“ありがとう”。」
「…俺は、お前が祝ってくれるなら、嬉しく思う。」
「え?何?」
つぶやくように言った言葉が、ケテルには聞き取れなかった。
「ほら、行くぞ。大人しくしていた褒美に、好きなだけ料理を食べるといい。パーティの残りものだがな。」
「なにそれ、まるで犬か猫みたいな扱い。でも、うん、きっと美味しいんだろうな〜♪」
再び歩き出す。つないだ手から温もりが伝わって、心まであたたまるような…レムオンは、素直に自分の誕生日を祝うケテルの言葉を嬉しく感じたのだった


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