puppeteer 2


「…――と、言う訳でレムオン様の事をお待ちになっていたのですが、そのまま長椅子でお休みになってしまって。」
「ドレスのまま転がってる訳だな?」
「はい。」
深夜になって帰宅したレムオン、出迎えたセバスチャンは、彼から上着を受け取りケテルの様子を伝える。レムオンは、疲れた様子も見せずスタスタと屋敷の奥へ向かった。
 絹張りの紅い長椅子の上に、彼女はひじ掛けにもたれて横になっていた。胸元が、ゆっくりと規則正しく上下している。優雅な所作など持ち合わせていない彼女だったが、こうして眠っている姿は、絵画にしてもいいくらい優美な趣があった。
「馬子にも衣装というが、コイツにドレスを着せるだけでも大変だというのに、よく全ての衣装を試着させて、そのうえ夜までそのままでいさせられたな。」
「それは、ちゃんとコツがあるのですよ。」
「俺以外の奴には、心が広いという訳か。」
「フフ、ケテル様は、レムオン様に甘えているのですよ。好かれていて良かったですね。」
「別に。」
気のない返事を返すレムオン。どこか拗ねたようなその様子が、セバスチャンには可笑しくてたまらない。冷血だとか感情がないとか言われるレムオンだが、本当は愛情深く子供のように純粋な一面も持ち合わせている。
「では、私は下がらせていただきます。ケテル様の事、後はお任せしますね。」
「どうして俺がコイツの子守りをせねばならんのだ。」
「ケテル様は、レムオン様に見せたくてそのドレスを着て待っていたのですから。ここでレムオン様が褒めてさしあげれば、喜ばれますよ。」
「宮廷のご婦人方以外に、妹の機嫌までとらねばならんのか、まったく。」
「それでは、失礼いたします。」

笑顔でセバスチャンが去って行ったあと、レムオンは、寝入っているケテルの身体を揺り起こす。
「起きろ、こんなところで眠ると風邪をひくぞ。」
「ン…あ、れ?お帰り、レムオン。」
「ああ。…珍しい格好だな?」
「うん。似合う、かな?」
「そうだな、見た目だけなら完璧だ。これで作法やダンスに通じれば、リューガの姫として問題ない。」
「ティアナ様みたいになれる?」
「無理だ。」
「そんな即答しなくてもいいと思うんだけど?」
「ふふ、お前は温室育ちの花じゃない。野生には野生の魅力がある。」
「レムオンって、けなしてるのか褒めてるのかわかんない。」
「褒めてるつもりだが?お前にはお前の良さがある、と言っているのだ。さて、着替えるんだろ?部屋までエスコートしてやる。」
レムをンがそう言って手を差し出した。ケテルは、その手を取ると立ち上がる。
 静まり返った中庭に、二人の靴音だけが響いていた。月明かりに照らされた廊下を進む。
「セバスチャンって、凄いね。なんだか、よくわかってるよ、私の事もレムオンの事も。」
「だからこの屋敷の権力者だ、と言ったのだ。俺も、あいつには安心して任せられる。」
「レムオンは、セバスチャンとは子供の時から一緒なの?」
「ああ。あいつの父親も執事だった。セバスチャンは、俺に仕える事が決まっているようなものだったからな。歳もほぼ同じだし、勉強も遊びも一緒だったな。 」
「同じ想い出をもってるんだ、羨ましいな。」
「いつも言ってるが、想い出くらいこれから作れ。それに、記憶が戻れば幼なじみの一人くらい居るはずだ。ほら、部屋に着いた、さっさと寝ろ。」
「待ってよ、レムオン!一人じゃ脱げない、手伝って。」
ケテルは、長いドレスのすそを掴み、ピラピラめくって見せる。
「だから、はしたない真似はやめろといつも言っているだろ!早く中に入れ!!」


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