puppeteer 1

「クズの相手まで手が回るか、誰か適当にあしらって !」
書簡を片手に、険しい顔でセバスチャンが答える。若いメイドは困惑した様子でまごついていた。
「そう言われても…。」
「“主に伝えおきます。失礼いたします”でいい、笑顔で言って来てくれ。」
「分かりました。っと!ケテル様?!」
「!すみません、ケテル様、こんなところまで足を運ばれて。もうしばらく部屋でお待ちいただけますか?今、ケテル様用に発注した衣装のリストを確認していたところですから。じきに仕立て屋が衣装を持って参りますから。」
「うん、分かった。」
「申し訳ありません。」
穏やかに微笑み一礼するセバスチャン。ケテルはその場を少し離れたが、立ち止まって後ろを振り返る。彼は、普段自分やレムオン、エストには見せた事のない厳しい顔で指示を出している。
「むぅ。」
ケテルはテクテクと部屋へ戻る。


「コチラは深い海をイメージして作らせたドレスです。胸元が広く開いているので、こちらのサファイアのネックレスと合わせて使用していただければよろしいかと存じます。」
「はぁ、うん。」
もう何着目になるのか、次から次に着替える事1時間、まだ衣装合わせは終わりそうにない。コルセットで身体を締め上げているせいか息苦しく疲れてきたが、“ノーブル伯”である以上ここで疲れたとか面倒だとか言う訳にもいかず、この苦行が終わるまで耐えるしかない。
俄然やる気のみなぎっている仕立て屋と反比例するように、ケテルはどんどん意気消沈していた。そんな時、誰かが扉をノックした。
「どうですか、ケテル様?」
「…セバスチャン。」
「今お召しになっているドレスも素敵ですね、よく似合ってますよ。そちらの漆黒のドレスもお召しになってはいかがですか?ケテル様の白い肌に映えると思いますよ。レムオン様の深紫の上着に合わせるなら、そちらのスミレ色のドレスもいいかもしれませんね。」
「変じゃない?兄さん、気に入ってくれるかな?」
「もちろんですよ。では、私はまた後ほど伺いますね。」
「次、着替える。」
「承知いたしました。」
やる気を取り戻したケテルの様子を見て頷いたセバスチャンは、足早にその場を立ち去った。


「ケテル様、温かいカフェオレでもいかがです?」
「うん…。」
「レムオン様は、帰宅が遅くなりそうですよ。ドレス、脱がれてもよろしいですよ?」
「普段女らしくないとか、ティアナを見習えとか言われてるから。…見せつけるまで、このままでいる。」
コトリ、と長椅子の前のテーブルにカップを差しだすセバスチャン。新緑のような黄緑色のドレスを身にまとったケテルは、長椅子に深く腰掛け、まるで人形のようにちょこんと座っていた。
「セバスチャン、ゴメン。忙しいのに気を使わせてるよね?」
「主に気を使うのは、執事として当然ですから。ケテル様が気にするようなことは、何もないですよ。」
「…でも、レムオンはともかく私は、…その…“本物”じゃないし、無視されても構わないよ?」
小首を傾げながら、ケテルはセバスチャンの顔を見上げて言った。すると、彼は、絨毯に膝をつきケテルの右手をとる。
「ケテル様は、もうリューガ家の一員。れっきとした私の主ですよ。レムオン様は、貴女を認め、妹だと私に紹介しました。あの時から、貴女はすでに“本物”なのです。」
白く細い彼女の手、甲に口づけセバスチャンは微笑む。
「よろしければ、また旅先の事など教えてください。私は、ケテル様のお話をいつも心待ちにしているのですよ?」
「うん。……ね、セバスチャンって普段の話し方って違うよね?私には、普通でいいよ。」
「ああ、指示を出しているところを見ていたのですね?ふふ、ケテル様、私の振る舞いや言動は、すべてそうしたいからそうしているのですよ。」
跪き、ケテルの手を取ったまま、セバスチャンは子供に言い聞かせるような口調で話を続けた。
「私にとっては、ケテル様に対してこうしてお話しすることが、とても自然なことなのです。ケテル様は、私がくだけた話し方をしなければ、私をお嫌いになるのですか?」
「そんなことない、私はセバスチャンが好き。」
「そう言っていただけると嬉しいです。私も、ケテル様の事は好きですよ。」


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