lesson2 1

コイツは妹などでは無い。俺が妹にした女。政争の道具でしか無いはずの女、いつでも捨ててやるつもりの女。甘ちょろい冒険者の女。
コイツは俺の大切な妹。気づけば傍にいる、微笑んでいる。アイツの好意に、つい甘えてしまいそうになる。…本音を吐き出しそうになる。

「レムオン?怒ってる??」
「…考え事をしていただけだ。別に、怒る事など無い。」
「そう?昼間、エストとのことで問題があったのかと思って…。」
夕食後、わざわざ部屋まで付いて来て言い出す内容がこれか。記憶が無いから仕方がないとはいえ…コイツのこういう反応は、達が悪すぎる。
「いいか、お前は俺の妹でエストも俺の大切な弟だ。エストがなんと言ったか知らんが、普通家族同士で寝たりはしない。」
「寝るって…ああ、ああゆうことも差すんだ。」
理解した、とケテルは微笑む。俺は、ため息をついた。
「なるほど。酒場で時々寝ないかって誘われたのは、ああゆう事をしようってことね。」
「酒場で…誘われた、だと?」
「よく言われる。この前ついていこうとしたら、ルルアンタやエステルに止められた。」
「当然だ!お前、好きでもない奴にもヘラヘラ付いていくのか?!」
「知らない自分を教えてやるって言われたから。」
「そんなものは、下心見え見えの男が吐く口説き文句の常とう句だ!」
「自分が何者なのか、分かるかもって思ったから…そっか、間違いだったんだ。」
ケテルは、淋しそうに目を伏せる。コイツのこうゆうところが苦手だ。ふとしたとき、哀しそうな顔をする。まるで、周りに一人取り残されたような…そんな顔だ。
気まずさに視線をそらすと、身近に吐息を感じて我に返った。足もとの床に座り込んでいたはずのケテルが、間近に顔を寄せキスしようとしている。俺は、とっさに椅子から立ち上がりその場を逃れた。
「何のつもりだ?」
「キスもダメ?」
「当たり前だ!俺は、お前の兄でお前は妹なのだ。昼間は、貴様が不意打ちしたからとがめなかっただけだ。」
「でも、…じゃあ、続きがしたい時ってどうすればいいの?寝る、続き。」
「……。」

俺に、どう答えろと言うのだ?
誰でも好きな相手を探せ、そう言うべきか?

「レムオン、なんか…変なんだ。その、どう言っていいか分からないけど…。」
自分で自分を抱きしめるようにしながら、上目遣いにケテルはレムオンを見上げた。昼間、エストの部屋で”取り込み中”だったところを引き離したのは自分だった。エストにはいくらか気を遣ったが、コイツの事は考えに無かったな。
「…自分でなんとかしろ。」
「はぁ?訳わかんない。」
「エストにやられたように自分ですれば、何とかなるだろ。」
「う〜。」

コンコン。

「入れ。」
「失礼いたします。レムオン様、先程言われていた書類をお持ちしました。どうされました?」
ノックと共に現れたのは、セバスチャンだ。どうしたのかと尋ねる彼、今の会話を盗み聞いていたとは思えない。些細な顔色から状況を察するあたりは、さすが有能な執事といえる。
「レムオンが私と寝てくれない。」
「馬鹿っ…!」
「そうでしたか。レムオン様、別に外にバレなければ問題ないのでは?」
「…簡単そうに言うな。」
「私はレムオン様の忠実な執事ですから、主人の秘密は命に代えても守り通しますよ?」
「セバスチャン、状況を楽しんでいるだろ?…そうだ、お前が相手をすればいい。」
「レムオン様?お戯れを、私が仕えるべき対象に手を出す訳にいかないでしょう。」
「このまま放りだして、どこの馬の骨か分からん奴に手を出されるよりましだ。ケテル、いいだろう?」
「セバスチャン?ああ、好きな相手とってエストも言ってたね。うん、いいよ。」
その返答に、何故か俺はムッとした。不愉快になる理由など、見当たらないというのに。
「本当によろしいのですか?」
「ああ。俺は、仕事を片付けている。隣のベッドでも使って、さっさと済ませてやってくれ。」
「…分かりました。」
セバスチャンが、ケテルの手を取り隣の寝室へ入っていく。俺は、それを横目で見送ると、机に山積する書類に再び目を通す。これでいい、これでアイツも満足するだろう。


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