lesson 1

彼女に初めて会ったのは、僕だった。
ロストール、千年樹のある噴水広場で、彼女は行きかう人に声をかけていた。


「こんにちわ。」
「こんにちわ。」
広場に来た時から、彼女は周囲の視線を集めていた。銀の髪をなびかせながら、気さくに周囲の人に話しかけていた。そして、僕にも。
「僕はエスト、考古学者なんだ。キミは?」
「…私は、ケテル。」
「ケテル、素敵な名前だね。ねえ、闇の神器って知ってる?」
神器についても知っていた彼女、僕の研究に興味を示してくれる数少ない人物。冒険者をしているという彼女とは、迷宮などで会うこともあった。
吸い込まれそうな不思議な瞳をした彼女は、いつだって興味深そうに僕の話に耳を傾けてくれる。左右色違いの両目には、僕の姿が映し出されていた。
それが…。

「エスト、知り合いか?」
「うん。僕の…友人だよ。」
「そうか。意外なところで世界は狭いな。」
ノーブルで反乱騒ぎがあった時、彼女は兄さんの傍らにいた。兄さんの隣にセバスチャン以外の人がいるなんて、かなり珍しい。
いつも他人を寄せつけない兄さんが…そんなこともあって、彼女に兄さんの事を頼んだのも僕だった。

そして、気づけば彼女、ケテルは僕の妹になっていたんだ。

「エストが家に居るなんて、珍しい。」
「ケテルだって、同じでしょ。ケテル、記憶戻った?」
「ううん、全然ダメ。」
「そっか。ね、ケテルのベルトの金具のところ、ちょっと見せて欲しいんだけど。」
「うん。」
ケテルを自室に呼ぶと、彼女はいつものワンピースからベルトを外し僕に手渡した。
「やっぱり。ケテル、これ、珍しいものだよ。今は、こういう細工をしたものってないんだ。数百年も昔のアンティークだよ。」
「そうなの?そっか、うん、ありがと。」
「お礼を言われるようなこと、僕はしてないよ。」
「知らなかった事に気づけたから、だから、ありがと。」
彼女は、微笑んだ。銀の髪がさらりと揺れる。出会ってすぐ、彼女は表情に乏しくて、その雰囲気もどこか無機質というか…まるで人形のようだった。
それが、最近は変わった。よく笑うようになったし、雰囲気だって前とは違う。
「最近、お城にも出入りしてるんだって?」
「ん。レムオンに付き合わされてるの。」
「兄さんに?」
「貴族としても名を売れって。ティアナ様に拝謁してるのよ。いつも、丈夫なだけしか取り柄がないとか、女らしくないとか散々いうくせに、アイツっって、ティアナ様の前じゃ…――。」
そう言って、彼女は兄さんの悪口を並べた。なんとなく、分かる。きっと特別なんだ。ケテルにとって、兄さんは…――。
「ね、ケテル。兄さんが好き?」
「?うん、嫌いじゃない。好き。」
「じゃ、僕は?」
「好き。」

…――こういうところ、わざとじゃないんだろうけど、君は罪深いよね。

彼女の肩を抱き、不思議そうに見つめる彼女の唇に僕は自分の唇を重ねた。嫌がるでもなく、腕の中のケテルは大人しく受け入れる。
そっと唇を離すと、彼女に問いかけた。
「キスは、初めて?」
「え?記憶には、無い。」
「ケテル、おいでよ。教えたい事があるんだ。」
「何?」
「男女の愛情表現について。」
「??」
怪訝そうに僕を見つめる彼女の手を引いて、ベットへと誘った。記憶が無いせいか、彼女はこれから何をされるのか、僕が何をしたいのか全く理解できないらしい。
そんな相手に男としての欲望をぶつけるのは、ほんの少し心がとがめるが…。


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