花去 kako 3

レムオンとティアナ様って、仲いいんだ…。

二人のやり取りがつづくなか、隣でその様子を見守っていたケテルは、なんとなく疎外感を感じずにいられない。昨日、幼いときのレムオンの事やティアナ王女の子供の時の話を少し聞いた。きっと二人は、昔から仲が良くて、よく知った間柄なのだろう。私にも、こんな風に子供の時の想い出を語りあえるような相手がいるのだろうか?大陸中、色々な街や村をまわったが、未だ自分に関わる手掛かりは何も得られていない。ほんの一人でもいい、本当の自分を知っている人に逢いたい。そして、教えて欲しい。どんな家族が居て、どんな街に生まれたのか…。

でも、もしこのまま出逢えなければ、どうなるのだろう。

我に帰った時には、二人は別れの挨拶をはじめていた。
「また、いらしてくださいますよねレムオン様?」
「ああ、くだらぬ噂の種にならぬ程度にな。」
「ケテル様も。」
「はい。ティアナ様さえよければ、喜んで。」
「またお会いできる日を楽しみにしています。」


城門をくぐりレムオンと二人きりになると、ケテルは、ティアナ王女との事をレムオンに尋ねた。
「イーシャもそうだけど、レムオンにも好きな人っていたんだね?」
「俺とティアナは幼なじみ。ただ、それだけだ。何を言い出すかと思えば…。ふん、お前も宮廷のくだらぬ噂話に毒されたな。」
スタスタと歩き出し、ふとレムオンが足を止める。
「…今日は無理に付き合わせて悪かった。これでも感謝しているつもりだ。お前なら、わかってくれるだろうが…。」
「別にいいよ、書庫をあさらせてくれれば。どうせこの後も他に行くトコあるんでしょ?先に邸に帰ってる。」
王宮から邸までの道を歩く。歩く事など慣れているケテルだったが、何故かその距離を遠く感じた。やはり、疲れがたまっているのだろうか。
邸では、いつもどうりセバスチャンが暖かく迎えてくれた。
「なんだか、ゆっくりしたくて。」
「たまには良い事だと思います。ケテル様、ご無理などなさいませんよう。東庭園の方で、この辺では珍しい”桜”という木が花を咲かせています。観賞なさるのも良いでしょう。書庫にも近いですし、よろしければご案内しますよ?」
 セバスチャンに勧められ見に行った先には、枝を淡いピンク色の花で飾った見慣れない樹があった。彼の説明では、この木は先代のエリエナイ候が譲り受けたもので、東方で好まれている樹らしい。
「こんなに沢山花が咲くんだ。綺麗…。」
「今がちょうど見ごろです。でも、散りやすい花ですから、あまり長くは楽しめないのですよ。」
「そうなの?」
「美しくも儚い様を好まれているのですよ。」
「?」
「ケテル様の好みではないかもしれませんね」

セバスチャンが差し入れてくれた紅茶を飲みながら、日が落ちるまでのんびり書庫で過ごしたケテル。そろそろお腹も空いてきた。レムオンも、もうじき帰る頃だろう。居間の方に続く廊下を歩くと、開いた窓から吹き込む風が髪を揺らし、それと同時にひとひらの花びらをケテルに届けた。淡い、薄ピンク色の花びら…。
彼女が昼間教えられた桜の樹にたどり着くと、紙吹雪のように無数の花びらが風に舞っている。
「ほんとだ、セバスチャンが言ってたとうりだ。こんな簡単に散っちゃうんだ…。」
あんなに咲き誇っていたのに…舞う花びらを手にとって、ケテルは考える。

折角咲いても、見てもらえないまま散ってしまう桜の樹もあるかもしれない。

どんなに探しても見つからない自分。このまま誰にも出逢えなければ、本当の自分を知ること無く消えるしかないのだろうか。


[ 14/34 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]








Material by
ミントBlue






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -