恋人を射ち堕とした日 4


「ねぇ、イーシャ。探してる男の人って、恋人??」
「なっ、突然何よ。」
「愛するって意味、イーシャには分かる?」
「し・知らないわよ、そんなこと!」
「えー。」
意地悪くケテルが微笑む。イーシャは、顔を紅くして彼女にギルドの配達物を投げ渡した。
「気味の悪い深海魚の目玉なんか、さっさと運んじゃうわよ!」
「くっくっく、なんか可愛い。さ、はりきって行きましょ。」
「ケテル、あなたレムオン卿の所で何を学んできたの?!」


「レムオン様、何か心配事ですか?」
「いや、ケテルの事だ。本当に、アイツにはもっとまともな教育が必要だ。冒険者などをさせずに、俺の補佐にでもつけて監視すべきだったかもな。」
「レムオン様、ケテル様の評判は、徐々にではありますが聞こえてくるようになりましたよ。それに、ケテル様は、小さな世界で満足するような御方ではないでしょう?」
「たしかにそうなのだが…。」
無駄な仮説を立てて論じるなど自分らしくない事をした、レムオンは自嘲した。
「…昨日の歌劇だが、アイツはくだらんことで泣き始めてな。俺が居ない世界に、華など咲かんとか何とか。」
「ふふ、好かれているのですね。」
「言っておくが、アイツが一方的になついているだけだ。」
「ええ、存じております。」
セバスチャンは、いつもの調子で穏やかに微笑んだ。孤高と言われるレムオンが、ケテルを補佐になどと言いだしたのは、紛れもなく特別視し始めた証拠だろう。長年執事として、いや、親友という関係でもあるセバスチャンにしてみれば、ここ最近のレムオンの変わりようは喜ぶべきことだ。政争にあけくれ、それ以外の事でも…気の休まる事など無いレムオンに、彼が信じるに足る存在が現れるというのは、嬉しい限りだ。
「…――真実は、歌劇などより残酷だ。いかにアイツでも、真実に触れれば、俺の元を去るだろう。いや、アイツが真実を知ったとなれば、俺は、アイツを殺さねばならん…。」
ポツリと、レムオンが呟いた言葉にセバスチャンが尋ねる。
「ケテル様を妹にしたこと、後悔なさいますか?」
「…――いや。ふふ、少し感傷的になっていたようだ。忘れてくれ。」
「レムオン様、ご無理などなさいませんよう。」
窓を見れば、清々しい青空が広がっている。今頃、ケテルはあの空の下、また旅を始めただろう。こちらは、見かけばかり煌びやかな地獄で仕事だ。
「俺はまだ、舞台を降りるわけにはいかん。あいつが帰る場所を失くすわけにもいかんしな。」
 
いつものボディーアーマーを着こみ、屋敷を出るレムオンの頭上を一羽の鳥が飛び去っていく。眩しそうに空を見上げそれを見送って、レムオンは馬車に乗り込んだ。

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