恋人を射ち堕とした日 2

「ね、どんな話かわかる?」
「さあ、好きだ嫌いだと言った類いだろ?」
明らかに興味がないといった感じのレムオンと、パンフレットを片手に目を輝かせているケテル。スミレ色のドレスに身を包み、姫らしく着飾った彼女の存在は、今日のオペラ以上に貴族たちの話題になっていた。令嬢として、見た目に関しては完全無欠な彼女だが、態度に関しては不安が多い。レムオンは、何度も彼女にくぎを刺す。
「はしゃぎすぎて、ぼろを出すなよ?」
「分かってるわよ、どうせ身軽に動けないもん。大人しくしますって。」
やがて、舞台が明るく照らされ、役者たちが歌い始める。

古の伝説
その魔物に傷を負わされた者は呪いが全身を駆け巡り 
やがては 同じ魔物になり果てるだろう…

弓がしなりはじけた焔 夜空を凍らせて
凛と蒼く別離の詩を 恋人(アナタ)を射ち堕とす

遠い日の忘れ物 引き裂かれた傷跡
呪われし約束を その胸に宿して

避けられぬ終焉は せめて愛しいその手で…
抗えぬ衝動の闇が僕を 包んだ

歪む世界螺旋の焔 輪廻を貫いて
凛と緋く血濡れ口づけ 恋人を射ち落とす

喪失への約束 白くしなやかな指で
銀色の弓矢を放つ 僕が息絶えるまで何度でも

月を抱いた十字の焔 茨を巻きつけて
凛と白く最後の弓矢 彼女を射ち堕とす

どうして

愛する人を失った世界には
どんな色の華が咲くだろう

あの日二人出会わなければ
殺しあうこともなかったけれど
こんなにも深く 誰かを愛することを
知らずに生きたでしょう
(恋人に射ち堕とされた日 - Layla x Shaytan (YUUKI & Revotan)参照)


『…くだらんな。』
目を閉じたまま、ウトウトまどろんでいたレムオンは、心の中で呟く。
『ダルケニスだというだけで、追われ、狩られるこの世界で…白々しいことだ。』
人でないなら、理由も何もなく狩ろうとするくせに、元が人なら泣ける話になるというわけか。レムオンにとって、今日の歌劇は、無駄に神経を逆なでする。
「ね、レムオン?」
「…なんだ?」
「魔物になちゃって、訳わからないんだから、殺して正解ってやつよね?」
「そうだな。」
目を閉じたまま、レムオンはケテルの問いに答える。
「自分が死んだって、何も変わらないのに、死んでも無駄死によね?」
「ああ。」
「愛するって、何?」
「…おまえ、俺にそんなことを聞いてどう――。」
ポタポタと、ケテルの瞳から涙があふれている。まさかこんな歌劇をみて泣くような女だとは思っていなかった、というよりケテルが泣くなどという事態を想像したことのなかったレムオンは、さすがに動揺を隠せない。
「お・おい、たかが歌劇だぞ?」
「うん。事象と結論から考えたら、無意味な話なのに…。」
「ならば、泣く必要など無いだろ?」
「なんとなく、レムオンを見たら…急に。」

無意味な歌だと思っていた。自分に力が無いせいで、魔物になった男の話。女一人、護れない男の話。無駄に男の後を追って死んでいく女の話。飽きて部屋を出ようとレムオンに声をかけようとして、不思議な感覚に捕らわれた。もし、歌の男がレムオンだったら…――。



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