片恋への招待状 3

「つまんないよね〜。竜殺しなんて呼ばれ方、色気の欠片もないじゃない?こんな可愛い美少女につける呼び名じゃないわよね。」
「貴様にはちょうどいいくらいだろ。」
「えぇ〜。だって、セラは“月光のセラ”とか呼ばれちゃって、カッコいいからそんな事が言えるのよ。だいいち、私一人で竜を殺した訳じゃないのに、なんで私だけが“竜殺し”なのよ。理不尽よ。ノーブル伯で十分だったのに。」
口を尖らせ、拗ねたようにそう言った。夜風が、彼女の蒼い髪を撫でた。
「ああ、ここよ、ここ。着いた、着いたっと。」
そこは、何もないライラネート神殿へ続く道途中、灯台を望む高台の端だった。柵にもたれて、彼女は海の彼方を見つめた。
「この海の向こうが、ロストール。あっち側がリベルダム。ねえ、今度はエルズにでも船旅に出ようか?ゆっくりクルージングを楽しむってのも、オシャレじゃない。」
「お前が乗れば、いい用心棒がわりだろ。モンスターの相手をさせられて、ゆっくりなんて出来る筈が無い。」
「そうなのよね、何処に行っても“竜殺し”。…たまにはさ、きゃーとか言って、素敵な男に守ってもらうとか、そんな展開ないかな。皆、普通に食事楽しんだり船旅満喫してるのに、不公平よねぇ。誰も知らない海の向こうに行けたなら、私もいたいけな一人の美少女として、扱ってもらえるかしら?」
「……。」
セラは、どう答えていいか言葉が見つからず無言でいた。その横顔が、とても淋しそうに見えたから…――軽い調子の言葉はいつもどうりで、視線を自分の方へ移した彼女は、右のポケットから何かを取り出した。
「あのさ、何が喜ぶかなって色々考えたんだけど、あんまり気の利いたもの思いつかなくてさ。」
「?」
「手づくりのモノも作れるほど器用じゃないし、だから、セラの喜びそうなものって考えて、これにしたんだけど。」
そう言って差し出したのは、青いリボンがかけられた小さな小箱。
「誕生日、おめでとう。セラ。」
「誕生日…。」
「なによ、自分の誕生日も忘れてた?あのね、ライラネート神殿で祝福してもらったお守りなのよ。大切な人と幸せになれるようにって。セラ、いつもお姉さんの事考えてるでしょ?早く、助けてあげれるようにって思って。もちろん、神頼みしなくたって私が何とかしてあげるけど。」
照れたように笑うリムローズ。
「来年は、私なんかじゃなくお姉さんに祝ってもらわなきゃね。」
「…ありがとう。」
「うん。…あ、ここ良い景色でしょ?気に入ってるのよ。夜は静かだし、潮風が気持ちいいのよね。」
そう言いながら目を細めた彼女は、穏やかな微笑みを浮かべていた。


宿の部屋に戻り箱を開けると、中にはローズクオーツを紐で結んだお守りが入っていた。自分からトラブルを起こす事も少なくなく、目を離せない彼女。気づけば、思わずあれこれ世話を焼いている自分。身勝手かとを持えば、仲間の事をよく理解している。素直じゃないが、誰よりも優しい…――似て非なる存在だ。
 セラは、頭を振った。アレに惹かれても、ろくな事にはならないだろう。
「馬鹿な考えだ。」
ベッドに身体を預けたセラ。夜は、静かにふけていく。


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