片恋への招待状 1

 あの穏やかな笑顔、慎ましやかで優しかった姉。自分と同じ長い黒髪が風になびいて、柔らかな声で自分の名を優しく呼んでいた姉。暴力が嫌いで弱者へのいたわりに満ちていた姉は、戦闘用のモンスターを作る行為に、どれだけ心を痛めたか…──。

「セラ〜、何してんの?」
「…貴様、街の中までつるまないという冒険者の暗黙のルールを知らないのか?」
「知ってるわよ?街中で自分の知った顔が、1人酒場で仏頂面してんのに無視するのは、人間としてどうよ、って思って声かけただけよ。」
ワインボトルを片手に、酒の匂いをさせ話しかけてきたのは、リムローズだった。これ見よがしにはだけた胸元、惜し気もなくスリットから太股をさらし、彼女は、その辺の酒場の女以上の色気と美貌を備えていた。
「ねぇ、一緒に飲もう?」
「…断る。」
「えー、なんでよ?」
「俺は、考え事をしている。騒がしいのは、ごめんだ。」
「あっそ。せっかくエンシャントにきたし、ここならウルサイ兄さんの目もないから思い切り飲めるのにぃ。じゃ、私も勝手に飲んでよっと。気が向いたら、声かけてよ?」
言うだけ言って、彼女はセラの座るカウンターを離れテーブルの方へ移動した。やがて吟遊詩人のリルビーが曲を奏でれば、彼女は旅先で覚えたダンスを踊る。貴族の肩書を持つくせに、上品とは言えない男を煽るような踊りを踊る彼女。あっという間に彼女の周りには人が集まり、一緒に踊りだす数人の男たちも現れ、笑いと手拍子が店内に響いた。

あいつは、いつもこうだな。

歳若く、少女といっても差し支えないくらいの年齢である彼女だが、酒が好きで、男好きで、退屈が嫌いで…――姉とは比べようのない下品な性格だ。穏やかに微笑む事など、見たことが無い。いつも強気な態度か、いい加減な調子で小悪魔のような笑みを浮かべている。自分の名を呼ぶ時も、間延びしたような声を出す。人の事などお構いなしで腕を組んできたり…――。



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