鎮魂歌と共に悪意は終焉への夢を抱く 2

「待てっ!ヴィルフリート!!何を考えておるんだ?!」

叫ぶ男と既に斬り伏せた遺体が3体、義母と貴兄と義弟の躯だ。家族の団欒の場であったはずのこの部屋は、今や血生臭い惨劇の現場となっていた。美しい面立ちの少年は、灯油を部屋に撒きながら歌う。

「Dies ira, dies illa
 solvet saclum in favilla:
 teste David cum Sibylla…――。」

少年と面影が似た男は、椅子に拘束され、必死で彼の名を呼んだ。少年は、そんな叫びなど気にもとめない。スタスタ歩く自分の姿を一体どんな気分で見ているのか、考えただけで愉快でならない。
何もかも、自分の思うままに生きてきた男。人の流す血と砕ける命を糧に巨万の富を得てきた死の商人。愛など解さないこの男の愛を得ようとついた母の嘘、それは自分に十分すぎるほどの準備の時間を与えてくれた。そう、まさにこの日を演出するための時間を。
「ヴィルフリート!!」
「審判の時だよ、父上?」
「何が不満だ?!金か?それともお前を家から遠ざけたことか?!なんでも言うがいい。望みなら叶えてやるから、私を助けてくれ!!」
少年は、男を一瞥すると、手にしていた缶を投げ捨てる。
「助ける?フフ、助けているじゃないか。この荒廃し、苦しみに満ちた世界から、いち早く貴方を遠ざけようというのだから。…欲しいものは、“総て”だよ。」


「待たせたな、出せ。」
「承知しました、総統閣下。」
屋敷から出てきた少年の顔には、不気味な仮面が付けられていた。黒い羽根と宝石をあしらった仮面、そして黒いローブを身に纏い、少年は組織の長として降り立った。
走りだした車の背後で、爆発音と共に屋敷が炎上する。夜の闇を裂くほどの炎は、全てを消し去ってくれるだろう。少年は、気だるそうに車窓の外を眺めた。彼らの住む高級住宅街、しかし、数十分車を走らせれば、そこは荒廃した世界が続いている。
ふと、瓦礫の山に小さな影が見えた。
「止まれ!」
少年の命を受け、車は急停車する。月明かりの下、うずくまる小さな子どもがいた。痩せて、泣くこともできないほど衰弱しているようだ。近づいたヴィルフリートを見つめる瞳に生気はなく、ただうつろだった。
「まだ2・3才でしょう。」
「…拾って帰る。運べ。」
「は?こんな、死にかけの薄汚れたゴミをですか?」
「2度も同じ事を言わせる気か?捨てたものなら、僕が拾っても文句はないだろ?」
「は、申し訳ありません。ですが…これほど衰弱していますから、見たところ幼児です、拾ってすぐに死んでもおかしくないですよ?」
「死んだらそれまでだ。今は拾いたい気分だから持って行く。それでいいだろ?」


それから数日後…――。
「…はい。」
「なんだ?」
天蓋付きの豪奢なベッドに横になる少年の手を、小さな手が握る。虚ろだった瞳は、今はキラキラと輝いていた。
「だいじ。」
覚えたばかりの言葉を話す。そして、うれしそうに顔を手に擦り付けた。
「…それなら、ココにいるといい、“メア”。」
ろうそくの灯りが、ゆらゆら揺らめく。窓のない地下の部屋、ヴィルフリートは不敵に笑う。
「さあ、始めようか、全てが僕に跪くまで。」

[ 6/62 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]








Material by
ミントBlue




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -