鎮魂歌と共に悪意は終焉への夢を抱く 1

今日も、あの日と同じ雨が降っている。母が死んだあの日と同じく、雨は大地を濡らす。

Requiem aternam dona eis, Domine,
et lux perpetua luceat eis.
Te decet hymnus, Deus, in Sion,
et tibi reddetur votum in Jerusalem.
Exaudi orationem meam,
ad te omnis caro veniet.
Requiem aternam dona eis, Domine,
et lux perpetua luceat eis.

聖堂に響くイントロイトゥス。漆黒の喪服に身を包み、車椅子を押されやって来た少年。長く伸ばした金髪、エメラルドグリーンの瞳、白磁のように白い肌、美しく中性的なその顔に幼さが残る。
ミサが終わり、墓標の前に立つ。花一つ飾れていない、そして彼は生前の母の言葉を思い出す。
「一人になりたい。」
そう言うと、車椅子を押していた男性は、一礼してその場を離れた。

『お父上は、貴方が生まれたことを望まないわ。あの人は、恐ろしい人。ヴィルフリート、貴方はひっそりと目に付かないようにしていましょうね。』
『歩けないことにするのよ。家から出なければ、あの人は、貴方に危害を加えることはないわ。』
『母様は、貴方を守りたいの。お父様には、うまく誤魔化しておくわ。』

「滑稽だね。母上が守りたかったものなどには、なんの価値もなかったようだよ?」
少年の顔に、死者を悼む哀しみも愛情も認められない。


『ヴィル…フリート?』
『ふふ、知りたいね。母上の“愛”などというものに、どれほどの価値があるのかを。』
刃は、その身体を貫いた。母と呼んだ女はとても美しかったが、他の人間となんら変わらない。骨は白く、流れる血も等しく紅い。胸を開き、掴み引きずりだした心臓が、まだ脈打っていた。
『誤魔化せない。自分だけが違うなどと、許しがあると信じることなど、現実は、等しく苦しみと哀しみしかもたらさない。目を逸らすことは、罪だ。』

あれから、2年。少年は、ただ静かに、冷めた瞳で墓標を見下ろしていた。


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