猜疑と疑念と 1

「ただの医者だよ。」オーレリアンは告げる
過去の因縁が、彼に猜疑の目を向ける。

それは、6年前…。
『そう、特別プロジェクトのエンジニアには、君が選ばれたのか。』
『やりたかったかい?大きな仕事だし、自分の能力を試せるいい機会だ。僕は、君が志願するのかと思ったよ?』
『よしてくれ、僕はただの医者だよ?軍医としての研修期間だからコッチにいるけど、軍立病院の教授が僕の目標だからね。軍での功績には、興味ないよ。』
『汚染派組織としては、大きな組織だからね。今まで誰も手がかりを掴んでいない…。僕は、必ず成功させる。正義が示されない世界なんて、不自然だろう?』
『僕には、君ほどの信念なんて無いからねぇ。』
『月の悪魔、絶対に倒す。』
『…応援してるよ、“桐島くん”。』



 そこは、日当たりの良い特別病室。軍立病院においても特別な…眠り姫の眠る病室だ。運び込まれた色々な機器が発する規則的な機会音、吊り下げられた点滴。金髪に飾られた品のある美しい瞳は、5年前から開かれてはいない。


「フフ、軍でも名高き名門一族。かつての陸軍中佐も…今は、生きる屍といったところか?」
薄い笑みを浮かべるオーレリアン。彼女の診察、というより観察にやってきた彼は、モニターや、グラフを楽しげに眺めていた。実に、興味深い。新種のウイルスに侵され、変貌こそしなかったものの、目を覚まさない彼女。血液のサンプルからは、貴重なデータ…新たな汚染ウィルスを生み出すために欠かせないデータが取れた。勿論、現在開発中の治療用ワクチンの効果を試すことも出来る。唯一難点があるならば……。

「すまないが、あまり母の周囲を彷徨かないでいただきたい。」
「それは失礼、僕は主治医ではないけれど、一応外科部長として、病状を把握しておく必要がありますので…お気を悪くするようなら、申し訳ありません。」
背中越しに、鋭く射ぬくような視線が浴びせられている。オーレリアンは、ゆっくりと振り返り微笑んだ。
「オティーリエさんのご息女ですね。お見舞い、いつもご苦労様です。」
「…貴男は、外科医としての腕も良い。しかし、母を見る目…医者のそれとは違う気がする。」
「汚染ウィルスの研究をしていますから…貴方の言うように、研究者としての視点から見てしまっているかもしれない。反省しましょう。」
“ご息女”という言葉に、男装のユリウスが、眉をひそめる。さらに鋭い視線を受け、彼は済まなそうに頭を下げた。
「オティーリエさんには、シュレンドルフ家専属の医師が治療に当たっていましたか?一応、僕も汚染ウィルス治療を担う者ですから、何かあれば声をおかけください。」
「間に合っている。」
「そうですか。では、私はこれで。お大事に。」

難点があるならば、彼女がシュレンドルフの人間で、感のいい娘達がしっかりガードしているということ。

「僕の患者になってくれればねぇ…口実付けて、内蔵でも覗かせてもらうんだが。シュレンドルフの荒神姉妹が付いていては、簡単には上手くいかない、か。」
そう言って、くるくるとペンを回す。
「ブリュンティエール部長!こんなところにいらしたんですか?!今日は、軍事訓練に参加する日ですよ。」
「え?あ〜、僕、オペ明けだし疲れてるんだよね。叉の機会に…。」
「これで3度目ですよ。軍医の資格がなくなりますよ?」
駆けつけた看護師が、口を尖らせる。今日は、正規軍人以外の関係者を対象にした軍事訓練が行われる日だ。嫌そうに溜息をつくと、彼はポンポンと看護師の肩をたたき『分かったよ。』と答え歩いて行く。


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