Merry Christmas to Devils 3

彼が“散歩”するなら、世界に帳が落ちた頃…月が霞むほどに、重たく淀んだ大気が立ち込める汚染された庭だろう。偶発的な出会いで、危うく首を刈り取られそうになったが、そのことに関する恐怖感も今は無い。彼は、“帽子屋”と呼ばれていた。シュワルツが言うには、彼は、狂気と欲望の赴くままに破壊と汚染を繰り返している第一級討伐対象者なのだそうだ。その中でもとりわけ悪質な…そのあたり、警戒しろと口煩く言われていたのだが、メアの記憶からはスルーされていた。
「ホントにこの辺?」
「たぶん。」 
「しっかりしてよ〜。」
「あのな、軍でもなかなか足取り掴めないような奴なんだぜ?予測するったって、限界ってのがあるんだよ。狂った奴の考えることなんて、正確にわかるかよ。」
「う〜ん、この辺は汚れて息苦しいくらいだし、居てもおかしくないのになぁ。」
「賞金稼ぎが利用するデータバンクの情報には、この辺があやしいって書いてあったんだけどな…。」
「ね、帽子屋さんってば第一級討伐対象者でしょ?カッコイイよね、総統も同じだよね、イイナァ〜私も早くそうなりたいよ。帽子屋さん、ドコかなぁ?」
「…お前、ホント気楽だな。絶対、殺されかけたこと、忘れてるだろ?」
「覚えてるよ。危なかったよね、絶体絶命って感じだったもん。でも、あの方が言ってたよ、狂ってるって、最高の褒め言葉なんだって。強ければ、世界はその存在を受け入れる、黒だろうと白だろうと関係ない。概念の拘束を受けず、自由に己を楽しむことが出来る勝利者なんだって。狂人だって言うなら、帽子屋さんもそうだよね?はぁ、カッコイイなぁ。」
「…そう、か。(総統の言葉なら、キッチリ頭に入るわけだ…はぁ。)」

 その頃、メア達は気づいていなかったが、自分のことを連呼する声に気づいた存在は、楽しそうに頬を緩ませていた。
「なんだか、今日の僕は人気者みたいだ。この声…この前逃がしちゃった子だねぇ。探してるみたいだから、挨拶してあげなきゃね。“キミ”、少し待っててよ?」
彼の前には、両目を見開き、ガクガクと震えている女がいた。コンバットスーツを着込んでいるところを見ると、彼女もまた彼を探していた者…ただし、好意的な意味ではなかったようだが。
「ねぇ、ホントにこっち?シュワルツ、レーダー狂ってきたんじゃない?」
「微かに反応あったんだって!少し黙ってろ、ったく。」

「あはは、捕まえた♪」

声と共に、ふわりと足が地面から離れた。相変わらず、手品のような神出鬼没さだ。底の見えない深淵のような暗い瞳が、愉しそうにメアを見つめる。両手で抱え上げられたメアは、彼の肩に手をかけ見下ろした。
「うわ?!…帽子屋さん、だよね?久しぶり。」
「相変わらず、い〜い首だね。」
「あげないよ?」
「え〜、ケチだなぁ。」
メアは思う、この瞳…――間近で見ると、心が落ち着く。そう、皆こうだ。昔から自分を可愛がってくれる人間は、皆一様にこんな瞳をしている、総てを浸食するような、狂気を孕んだ美しい瞳だ。自然と顔がほころぶメア。
「帽子屋さん、探してたんだ。逢えてよかったよ。ね、私クリスマスパーティ開かなきゃいけないんだけど、お友達から『手作り』がいいって言われたの。だから、可愛いキャンドルを作ろうと思うんだけど、材料が売ってないんだよ。」
「うん、うん。」
「帽子屋さんて、首集めてるでしょ??ね、“ドクロ”持ってない?」
パチパチと、可愛らしく瞬きしながら小首を傾げる。が、話の内容は、それに比例せず穏やかなものでは全くなかった。
「キャンドルって言ったら、ドクロの中に蝋燭入れるものだよね♪だから沢山探してるんだけど…身体から首だけ切り落とすのって大変だし、要らないものが沢山出るからゴミ捨てだって困るし…帽子屋さん、持ってない?」
足元で、「もう嫌だ。」といった表情のシュワルツが溜息をつく。誰か、この根本的に狂った感覚を元に戻してやって欲しい。話の内容に違和感を感じていないのは自分だけ、という異常事態が、早く終わってくれればいいのに…創造主が設定した、常識的判断力をつくづく呪う。
「ん〜、僕は要らない首は捨てちゃうし、髑髏は趣味じゃないなぁ。…あ、僕の知り合いの”食べ残し”か"開けてみたけどハズレだったモノ”ならいいかもね。欲しい?」
「うん♪あ、でも私の首はあげれないから…そうだ、クリスマスプレゼント用意するから、待っててよ。駄目?」
「いいけど、代価には相当の報酬を。満足できなかったら…キミの首を貰うよ?」
「わかった。私、頑張るから大丈夫♪ドクロ、チ・カセカイの『月光花』ってお店に送ってくれるかなぁ、メアのって書いてあれば分かると思う。ごめんね、帽子屋さん。お話の最中だったんでしょ?お姉さん、アッチに行っちゃったよ。」
「みたいだねぇ。話の最中にいなくなるなんて、大人なのに礼儀を知らないね。じゃ、メアちゃん…楽しみにしてるよ?」
その最後の言葉に付け加えられた微笑は、暗い狂気を孕んだものだったが、彼女は本当に嬉しそうに笑うと、ペコリとお辞儀し手を振った。
「うん、さよなら。またね。」
歩き出すと、後方から叫び声が聞こえたが、それもすぐに掻き消え、以前聞いた陽気な鼻歌にとって変わった。
「危ない取引しやがって…アテ、あんのかよ?」
「ん〜、探せばいいんだよ。」
「ノープランかよ?!」
「そんなことないよ。誰にしようか決めてないだけで、ドコを狙うかは決めたんだ。だって、サンタは皆が喜ぶものをプレゼントしなきゃいけないんだもん。」
シュワルツを抱えながら、メアは空を見上げ微笑んだ。
「十字架も飾らなきゃいけないから、…情報集めなきゃね、シュワルツ、頑張ろう。」




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