The lunatic iover 4

「待って!」

腕を掴んだのは、オーレリアンだった。
「愛しい君を一人に出来るはずがないだろ?待って、着替えるから。ね?」
「……まだ、その口は愛しいなどと言えるのか?」
振り返らないヴィルフリートを、オーレリアンは背中から抱きしめた。
「当たり前だよ。誰よりも美しく、僕が唯一愛する人……僕は、ずっと傍に居るさ。」

(家族への愛を口にするなんて、君にとっては耐え難い嘘だったね。あまりに完璧で…忘れていたよ。)

「……鬱陶しい。」
いつもの、艶のある声でそう答えたヴィルフリートは、しかし、その抱きしめられた腕を振りほどこうとはしなかった。

車椅子の彼を車へ運ぶ。スモークガラスの向こう、素に戻った彼は、少し空いた窓からオーレリアンに笑顔を見せる。
「今夜連絡、待ってるよ。」
「ああ。8時にはホテルに戻る…そうだ、オーレリアン、メアは?」
「え?メアなら今だと重化学工業地帯に行ってるよ。数日帰れないね。」
「…俺が此処に来ると、貴様に伝えたのは1週間も前だったな。」
「そうだね、それくらいだね。」
「それなのに、メアをここから遠ざけたのか?」
「え?やだな〜、邪魔されたくないし、僕さえいれば十分だろ?」
「……貴様の顔など見たくない。アロイス、出せ。」
「え?、ちょ・ちょと!」
車のドアは閉められ、不機嫌な主は走り去る。

その夜、オーレリアンの携帯がなることはなかった。

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