シュワルツ失踪事件 13

 「薔薇、フルールのとこにあったのと色が違う。青いのもあるんだね。」
湯船に浮かぶ華をみて、メアが嬉しそうにはしゃぐ。広い浴槽は、二人が入ってもまだ余りある。メアは、何が楽しいのか、その花びらを1枚1枚ちぎっては微笑んでいた。その元気な様子とは裏腹に、先の工場跡地で負った怪我のせいで、身体中あちこちに包帯が巻かれている。
「あの程度の場所で、よくそんな怪我ができるな?情けない。」
ヴィルフリートが、溜息と共に吐き捨てた。
「う、申し訳ありません。」
「偉そうなことを言っていた気がしたが?そんな継ぎ接ぎの身体になってどうする。」
「すみません。…総統…失望、した?」
申し訳なさそうに、メアが瞳を伏せる。消えそうなほど小さな声で、恐る恐る問いかける。と、間髪入れず頭を抑えこまれ湯船に沈められるメア。バシャバシャともがく姿を不愉快そうに見下ろしていたヴィルフリートが手の力を緩めると、激しく咳き込みながら、ゼエゼエと彼女は呼吸した。
「偉そうに、俺は元々お前などに期待などしていない。期待してないのだ、失望などするか。それと…!」
髪を掴み、上を向かせる。
「レリウーリア総統が、幹部でもない者を部屋に呼びつけると思うか?お前を呼んだのは"俺”だ。お前、この俺の名前を忘れたのか?」
「ヴィルフリート、様。」
「ちゃんと覚えているようだな。」
「忘れるわけない!その…名前で、呼んじゃダメかなって思ったから…。」
「今は、仕事外だろ?これ以上不愉快にさせるな、側に居たければな。ほら、洗ってやるからこい。」
メアが、ヴィルフリートの前にちょこんと座る。と、彼は手馴れた手つきでメアの緑色の髪を洗う。
「ちっ、少し髪が傷んだんじゃないか?手触りが悪い。」
「ゴメンなさい。」
「…外はどうだ?俺と離れて、清々してるだろう?逃げるなら今だぞ、メア?」
「え?」
ばしゃりとお湯がかけられ、泡が洗い落とされると、メアは目の前のヴィルフリートを見上げる。彼は、彼女の髪を弄びながら見下すと言葉を続ける。
「俺がチャンスをやると言ったら…自由にしてやると言ったら?」
「ヴィルフリート様…私、強くなるからっ!だから、もうしばらく、お待ちいただけますか?必ず、役に立つ道具になるからっ。
「気は確かか?俺から離れれば、戦地に行くことも、その手を血で汚すこともないぞ?」
「私は…何もいらないです。う、ヴィルフリート様の、ヒック・お役にたてれば…私、頑張るから…捨てないで?」
ボロボロと涙が零れ落ちる。ヴィルフリートが言う逃げるという意味がメアには解らない。自分にとって、ヴィルフリートは世界そのもの、他なんて欲しくもないし、彼の傍らこそ安住の地だ。怪我をしようが、死と隣り合わせの戦場に出ようが…彼が笑ってくれるなら、幾千の命を犠牲にしようと気にもしないし自分の命だって喜んで捧げよう。だからこそ、捨てられることだけは嫌だ。我慢しようとしても、涙が止まらない。
「俺を選ぶのか?まともな救いは待ってないぞ?」
ヴィルフリートは、メアを引き寄せると泣いているメアの涙を舐めとった。
「側に居るというなら、俺のために生きて、死ね。悪魔に救いなど無い…だから、俺が救ってやろう。」
鮮やかに、彼が微笑む。優しく告げる悪魔を前に、メアは抱きつき首に手を回す。
「必要とされるなら、ずっと一緒にいたい。」
「それなら早く強くなれ、特別にもう少しだけ待っていてやる。」

流石は設計者、といったところだろうか。昨日の夜の記憶が調整の影響からか抜けてしまったものの、体の調子がすこぶる快調なシュワルツ。そして…。
「うふふふふ〜♪」
「メア、いつまで気持ち悪い笑い方してんだ?」
やたらご機嫌なメア。まあ、総統と朝まで一緒だったのだから当然だろうが…ここまでニヤニヤされると不気味だ。
「だって、総統、しばらくこっちに居るって…ふふふふふ♪」
「お前と会う約束は、もうしてないだろ?」
「私、仕事頑張る!原生生物狩りまくって、邪魔する奴は、全部排除する。そしたら…また、会ってくれるかなぁ?」
「どうだかな。なら、きっちり仕事するぞ?」
「うん。……あれ?シュワルツ待って、あそこの服可愛い。ちょっと行ってこようよ。」
「メアっ、だからお前はちゃんと真面目に仕事しろ〜!!」

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