シュワルツ失踪事件 12

ホテルの最上階、男たちはグラスを片手に勝利の美酒を口にする。テレビでは、ニュース速報として浄化プラント爆発が報じられ、Richebourg[1983]と銘打たれたワインは、既に5本も空けられている。
「…飲みもんだけで、車が買えるな。」
「メアも飲みたい。」
「まだ未成年だろうが!身長伸びねーぞ。」
「う、それはヤダ。」
折角の機会だから整備する、とオーレリアンが言い出したため、シュワルツはケーブルを繋ぎデータのバックップ中だ。シュワルツが座るソファに並んで座るメアは、足をパタパタさせ彼らを見ている。
「あっち、行かねーの?」
「ん?おっきなメロン食べたから、お腹いっぱいだもん。お酒飲めないし…見てるだけでも幸せだよ。」
言うまでもなく、メアの視線の先にいるのはヴィルフリートだ。素顔を隠す仮面はもう無い。オーレリアン、アロイスとなにやら談笑している。人目を気にする必要もないこの部屋では、ソファに深く座り、足を組み嘲笑っている。浄化プラント爆発のニュースが、愉しくて仕方ないらしい。どうも今回の作戦に戦術的な意味は殆ど無かったらしく、本当に遊びでしか無かったようだ。そのうち、メアがコシコシと目をこすり始める。あっふとアクビをしているところをみると、眠くてしょうがないようだ。
「メア。」
「ふぇ?!はい、総統閣下?」
「風呂にはいるぞ、そのまま寝られでもしたら汚い。」
ヴィルフリートは、メアの腕を掴み浴室の方へと引っ張っていく。
「じゃあ、僕も一緒に入ろうかな?」
「邪魔だ。」
「ひどいなぁ〜、僕とヴィルの仲じゃないか。」
「お前は、そこのバイオロイドのメンテナンスでもしてろ。」
「甘やかすねぇ。ま、心配してたんだし仕方ないか。」
「誰が心配などするか。俺は、汚れたものが嫌いだ。」
ハイハイ、と気のない返事を返すオーレリアン。彼はワイングラスを精密ドライバーに持ち替えシュワルツの横に座る。
「さて、恋人にはつれなくされるし、バックアップも終わったようだから調整するかな。」
「…なあ、サポートのバイオロイドに感情なんて必要だったのか?」
シュワルツが問いかける。ずっと疑問だったのだ、なぜ彼が自分に感情までプログラムしたのか。
「おもしろいからさ。心の再現、それこそ神の領域な気がしないか?」
「けっ、バカバカしいぜ。」
「もっといえば、君には良識的な基準でメアに接して欲しいのさ。」
「?」
「あの子は、ヴィルが飼い殺した可愛くも危険な愛玩動物。君が普通の生活をサポートしなきゃいけないし…普通に接して、万が一彼女が穏やかな生活を望むなら、処分しなくちゃいけないからね。」
「!」
「外に出れば、知るようになる。普通の暮らし、暖かな家庭…彼女にとって、それらを知ってなおヴィルが唯一絶対の存在かな?」
「俺は、メアを殺すために送り込まれたってわけか。」
「違うよ、より完成させるために君が必要なのさ。それに、ただの機械じゃメアが喜ばないだろ?総統と離れて、寂しいだろうしね。ほら、ちょっと電源切るぞ。」
プツリ。世界が停止する。


[ 23/62 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]








Material by
ミントBlue




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -