シュワルツ失踪事件 11

夜の帳が降りた頃、メアとシュワルツは、首都を離れ近隣の街を浄化するラントを見下ろす丘の木立に立っていた。
「今日はね、特別なんだよ!ドキドキしてきた。」
「特別な仕事なのか?」
「ご褒美なの♪」
「はぁ?」

「待たせたな、メア。」

降ってきたのは、凍てつくように冷たく、それでいてどこか甘い声。
「総統閣下。」
これ以上無いほど嬉しそうな満面の笑顔で、メアは黒耀の宝石と羽で飾られた仮面の男を見上げた。その両隣には、仮面をつけているが、シュワルツもよく知っているFull Moon将軍ことオーレリアン。データから言うと、彼はNewMoon将軍だろう。このメンツが揃うとは…しかも、彼らにまさかメアが加わるのか?根本的な実力が、天と地ほど違う。組織のトップが出るような戦場に、メアが出て生きて帰れるのか?シュワルツは不安そうにメアを見上げる。
「心配ないよ、僕たちがいるんだし。うん、僕が創っただけあって優秀なバイオロイドだ。今日は、言ってみれば遊びだから、ねぇ?」
「死装束ならもう着てるんだ、なんの心配もない。」
「うん。」
嬉しそうに頷くところじゃないだろう、と突っ込みたいシュワルツだったが、言えば100%壊されそうなのでやめることにした。何しろ、相手は総統閣下だ。あのマッドサイエンティストが敬愛してやまない悪魔…冗談や悪ふざけが通用するとは思えない。
「行くぞ、宴の始まりだ。」
 爆音と共に警報が鳴り響く。そのけたたましい音に混じり、悲鳴と怒声があたりに響いた。たった四人の侵入者。しかし、恐ろしいほどに強い。メアは彼らの背後から、監視カメラを狙い撃つ。彼らが立ち止まらなくていいように、攻撃の妨げにならないように。前に立ちふさがるものは、ほとんどヴィルフリートが斬って捨てた。二対の紅く光る電磁剣は、淡い残光と共に敵を両断し、反撃すら許さない。比較的小さい規模の浄化プラントでは、警備の兵の数もたかが知れている。そのうち向かってくる者は尽き、逃げ惑う者ばかりになったが、彼らの宴は終わらない。殲滅、それが彼らの流儀だった。一切の情けも容赦も、そこには無い。あるのは狂気、絶望と死…――。陶酔したような表情で、メアが彼らをみつめていた。彼女の指は引き金を引き、精密な機械のようなその射撃は、身を潜める者の僅かな希望を吹き消していく。やがて警報音だけが施設に虚しく響き渡る頃、彼らは軍の到着より早く施設を離れた。仕掛けた爆薬が、背後で爆風と共に彼らの勝利を天高く告げる。
「祝杯をあけるぞ。メア、お前も来い。」
「いいの?」
「今日は、気分がいい。幹部でもない者を身近に引き入れるのは問題だが…見逃してやる。」
「総統…ありがとう。」


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