シュワルツ失踪事件 10

「…あ、れ?」
重たいまぶたを開くと、見たこともない天井と、吊るされた点滴が視界に映る。だるい体は熱っぽく、脱がされた服の代わりにあちこち包帯が巻かれていた
「気づいたか?」
「しょーぐん??」
「はぁ、誰がウイルスに対するワクチンの有効性まで証明して来いと言った?あと少し遅かったら、ウイルスが増殖して効果は見込めなかっただろう。ついでに、どこからあの痛み止めを手に入れた?」
「それは…派遣された傭兵が持ってたから。私一人じゃ、失敗しそうだったから…。」
「…一人??」
「う・うん。皆、途中で職務放棄するから…頭に来てポイしちゃったんだよ。だから、その…――。」
もごもごとメアは口籠もる。
「失敗したくなかったんだもん。」
呆れた、といった表情で、オーレリアンはメアの肩を叩く。
「今メアに死なれたら、僕が困るところだったよ。」
「どうして?」
「あれ。」
彼の指さした先に、綺麗な純白のゴシックドレスがかけられている。サイズも、ちょうどメアに合いそうだ。
「死ねかもしれないって言ったら、死んだら着せておけってね。今外に出てるけど…ま、生きてるんなら連戦連勝のご褒美に、僕が引き会わせてあげるさ。損ねた機嫌も治りそうだしね。」


翌日。
「こんにちは。」
「いらっしゃいませー。」
「あの、オヴニルにココ教えてもらって。」
「シュワルツくんの飼い主さん?ちょっと待ってて、今連れてくるわ。」
呼ばれて外に出てみると、珍しく純白のドレスを着たメアが待っていた。シュワルツを見つけ、はじけたように笑う。
「シュワルツ〜!良かった、誰かに食べられちゃったかと思った。」
「あのな、俺はバイオロイドだって。普通食わねぇだろ。」
メアは、いつものようにひょいとシュワルツを抱き上げる。
「イテ、痛いぞっ!こら、や〜め〜ろ〜。」
「心配したんだから…なんか、調子でないしさ。ふふ、やっぱりふかふかで気持ちいい♪」
「よかったわね。そうだ、お客さんもちょうど途切れたし、お茶にしましょう。私は、フルールっていうの、貴方は?」
「メア。フルール、ほんとにありがとう。シュワルツ、無くしちゃってどうしようかと思った。」
「いいのよ、可愛いウサギさんだもんね。もう、はぐれちゃだめよ。」
ダージリンの上品な香りと、彼女が焼いたシナモンロールが食欲を誘う香りを放つ。向かい合い座る二人、彼女たちは花のこと、服装についてなど”普通”の会話で盛り上がる。
「じゃあ、フルールは軍のお仕事手伝ってるんだ?」
「手伝うっていうか…まだ、皆に一生懸命ついて行ってるって感じね。この世界が、色とりどりの花で満たされることが私の夢なの。」
「花かぁ…うん、フルールにはぴったりだね。お花、似合うもん。」
「メアちゃんも似合うと思うけど?」
「う〜ん、そうかなぁ?フルール、また遊びに来ていい?もう私、帰らなきゃいけないから。」
「もちろんよ。」
「シュワルツ、行こう。アルテミスの神木の森で、さっそくパーティーだよ。」
メアは、シュワルツを抱えるとフルールとリコリスの二人に笑顔で手を振った。
「メアちゃん…。」
「フルール、どうしたのかニャ?」
「ううん、ちょっと気になっただけよ。あ、ほらお客さんだわ。」


[ 21/62 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]








Material by
ミントBlue




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -