シュワルツ失踪事件 9

ヘイムダルと別れたメア、作戦終了の報告をオーレリアンに告げる。
「任務完了です、将軍。」
「了解、結果が楽しみだよ。ディーバの件も早かったし、ホント優秀だね。」
「どうかなぁ…あのね、もう一つ報告っていうか、聞きたいことあるんだよ。」
「ん?今日は、機嫌がいいから聞いてあげるよ。」
「感染生物に引っ掻かれたんだけど…なんか、クラクラしてきた気がするんだ。息、しづらい気もするし。」
「なんだって?そんなことは先に言え!メア、今どこだい?」
「えっと、州立図書館の向かいのカフェ。」
「拾いに行くから、動くな。いいな?」
「うん。」

ダーク モカ チップ フラペチーノを混ぜながら、メアはぼんやりと外を見る。痛み止めに飲んだ薬のせいだろうか、やたらボンヤリする。この薬は、本来幹部候補は使わない薬だ。効きすぎて、例え致命的な怪我を負っても気づかないから…――口に入れた飲み物の味もわからない。ただ、しばらく待つと厳しい顔のオーレリアンが現れて、仮面をつけない私服姿は久しぶりで……なぜか、とても会えたことが嬉しかった。

意識が白濁としていく。

「ちっ、メアの奴…ヘマしてなきゃいいけど…――。」
「なんだ、普通に喋ってるニャ。」

「!」
「フルール、黒ウサギが喋ってるニャ!」
「テメっ!…メインフレームへのアクセスは、ご主人様以外――。」
「安心して、私は分解なんてしないから。もう、ユリウスさんやテオくんが壊そうとするから…私はフルールっていうの、こっちはリコリス。ウサギさんは?」
「…俺はシュワルツ。」
「見たままだニャ。」
「うるせー。」
ぷいっとシュワルツが横を向く。そこには、色とりどりの花が咲いていた。よく手入れされた鉢植えのものから、鮮やかな発色の切花、ちょうど声をかけてきた少女は、メアより少し年上だろうか。彼女に似た碧の瞳、茶色髪をなびかせながら、楽しそうに花の世話をしている。
「そうだ、シュワルツくん。ご主人様?お仕事で忙しいから、明日までには取りに来るって。もう、大丈夫?」
「ああ、ちょっとショックで放電して、電力不足だっただけだから平気だ。…そっか、仕事か…――。」
不安がよぎる。確か、今度の仕事はfullmoon将軍、自分を作ったマッドサイエンティストが指示した作戦だ。楽な仕事のはずがない。万が一、なんてことになってなきゃいいが…メアを助けるために生まれた自分が、一人だけこうして安全な場所にいるのは不本意だ。フルール、と言ったか?再び彼女の方を見た。老夫婦らしい二人となにやら楽しそうに話しながら、手にしている赤い花について話しているようだ。
「なんだ、フルールばかり見て、惚れたかニャ?」
「違うっ!…普通は、あんなだろうなって思っただけだよ。」
「普通?」
「俺のデータバンクにある女の子の定義で言えば、花とか見て笑ったりさ…――。」
少なくとも、血濡れた道具になりたいなんて思わないだろう。
「そういや、さっき軍の連中が来てたな。なんか関係あんのか?」
「ユリウスとテオの事かニャ?二人のこと、よく分かったニヤー。向こうのユリウスの方が熱心なんだニャ。でも、フルールも治安維持部隊に協力してるニャ、フルールはああ見えて強いニャ。」
「そっか。(えらいとこに拾われちまったぜ、メアの奴と合わせてもいいかな。)」
椅子に座ったまま、シュワルツはフルールとリコリスを眺めていた。メアは、こうゆう穏やかさを知らない。普通の幸せを知らない。狂気の腕に抱かれて、少しずつ侵食されながら生きてきたのだ。任務で外に出て、こうした”普通”に触れて…歯車が狂うことがあるんじゃないだろうか?


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