シュワルツ失踪事件 8


「ハァ、ハァ、ハァ。」
全力で走り物陰に身を潜めると、なんとか乱れた呼吸を整えようと息を吸う。工場の奥、なんだか見たことのない大きな生物がいたので、こんな環境で生き抜けるだけの生物なら標的として申し分ないと判断し、汚染ウイルスの入ったアンプルを専用の銃にセットし数回打ち込んだ。任務は成功、と言いたいところだったが、感染した生物は、のたうちまわった末その苦しみを与えた元凶に報復しようとメアに襲いかかってきた。

「ハァ、ハァ、あいつ…しつこい。」
怒り狂ったように、苦しみもがくように、感染生物は暴れながら、逃げるメアを追い回す。此処に来るまでに浄化兼警備用ドロイドと戦闘を繰り返していたおかげで、メアの方ももう体力の限界にきていた。気を抜くともつれそうになる足で、出口の方へと必死で駆ける。ヒュッと空気を裂く音がしたので反射的に避ける。が、左腕を捉えられたのか、服の袖が裂け生暖かい液体が流れ落ちる感覚だけが伝わってきた。
「被験体じゃ、なかったら、絶対服代の分償わせてやるのにっ!」
上階に続く階段を駆け上がる階段の先、確か頑丈な扉でロックされていた。そこさえ潜り抜ければなんとかなるはずだ。

グガァアアアァア!!!

「!!」
メアは、首のリボンを解くとマントを捨てる。そちらに気を取られた魔物が、ズタズタにマントを引き裂く間に、なんとか扉にたどり着いた。手早くボタン押し、外に飛び出す。
「おわ?!」
「きゃあ!って、扉閉めなきゃ!」
「扉?ヘイヘイ。」
男が、メアを抱きとめた手を離し、ボタンを押すと扉が閉まる。程なくして内側からダンダンと扉を叩く音が響き振動が伝わるも、元の静寂が戻る。
「はぁ〜。」
「なんか物凄い唸り声が聞こえるけど…こんな危ない場所で、女の子がなにしてんの?」
「鬼ごっこ。」
「そらまた、危ない遊びやなぁ。その腕、怪我しとんのとちゃうん?平気そうやけど。」
「ん?ああそうだった、治療薬…。」
ゴソゴソ腰のポーチを漁るメア、唯一残っていたオーレリアン特性の治療薬を傷口に当てた。
「これでよし♪」
「イヤイヤ、全然よくないやろ。アチコチ怪我してやばそうやないか?痛ないの、アンタ?」
「メア、私の名前だよ。痛くないよ、薬飲んでるから。身体には悪そうだけど…まあ、今死ぬわけにはいかないしね。お兄さんこそ、なにしてんの?」
「俺?まぁ、観光や♪」
「じゃあ、この先立入禁止だよ。」
「なんか残念やなぁ、おもろいことになってんのとちゃうん?」
「…これからなるんだよ。だから、今は駄目。もっと、変わってからじゃなきゃつまらないもん。お兄さんなら…いつだって観に来れるんじゃない?」
メアは、ニコニコ笑って相手を見た。赤い髪に、吸い込まれるような紫の瞳をした彼は、やはりニコニコ笑いながら答える。
「そうかもな。あ、俺ヘイムダル言うねん。よろしくな、メアちゃん。」
「うん。あ、ねぇ、外まで一緒に行ってくれないかな?」
「まぁ構わんけど、ええの?知らん人について行くなって、学校で教えられんかったか?」
「学校?行ってないからわかんない。ヘイムダルが嫌なら、一人で何とかするよ。」
「いやいや、じゃあ行きましょか。ではお嬢さん、お手をどうぞってな。」

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