月明かりの下 悪夢は始まりの鐘を鳴らす 2

浄化プラントを中心に、立ち並ぶ建物。街に近づくと、時折足元に医療ロボットがまとわりついた。メアは、地図に書かれている組織が用意した部屋に向かう。30分もかからないはずの場所に着くのに1時間以上かかったのは、メアがフラフラ寄り道していたせいだ。閑散とした部屋には、バックと毛布が1枚あるだけだった。
「うん、やっぱりこの子が無いと、しっくりこないよ。」
メアは、ケースから取り出した愛用のライフルに頬を寄せる。ひんやりとした冷たい感触が、心地いい。
「のんびりしてる時間なんて無いぜ?夜明け前までに、決行しなきゃいけねぇんだろ?」
「シュワルツって…小煩いよ?」
「メアがのんびりし過ぎなんだろっ!!」
「私、シュワルツあげるからって言って、すごく痛い思いしたのに…。」
「けっ!俺の知ったことかよ。文句なら、直接あのマッドサイエンティストに言うんだな。」
シュワルツ、そう呼ばれている黒いウサギは、オーレリアンからのプレゼントだった。オーレリアン=ブリュンティエール、ヴィルフリートとは昔から付き合いがあるらしく、組織の大幹部でもある。メアが知る限り、自分以外でヴィルフリートが仮面をつけずに会う組織の相手はほんの数人…その中でも、オーレリアンは私室にまで入れる特別な存在だ。メアのことをいたく気に入っているらしく、組織に入ったと聞いた彼は、早速この口と目付きの悪い黒ウサギをメアによこしてきたのだ。


「メア、将軍がお前に会いたいとのことだ。」
教官にそう言われ、出向いた部屋。メア、と自分の名を呼ぶ漆黒の仮面をつけた男の声は、聞き覚えがあるものだった。彼は、よく知っている相手オーレリアンだ。
「なんでしょうか、“閣下”?」
あえて名前を呼ばないメア。兵士になった以上、知ってはいても口に出さないのが鉄則だと理解している。
「いいネェ、教育が行き届いてる感じだ。兵士の服も、様になってるじゃないか。訓練完了なんだろ?総統閣下は会いに来たかい?」
「佐官になるまで会わないって…。」
「可愛いペットが居なくなるから、ご機嫌斜めなんだよ。僕にとっては好都合、ちょっとおいで。」
「…私、嫌な予感する。」
「命令。」
思い返すと、今まで彼にとっての好都合は、自分にとっての不都合に他ならない。彼調合の毒入りジュースを飲まされたり、新型の電磁兵器の試作があるからと試し撃ちの的にされたり、ヴィルフリートが止めさせて事無きを得たが、自信作だという汚染ウイルスの被験体にされかけたこともあった。命令だというなら断れないので、メアはしぶしぶオーレリアンの側による。オーレリアンは、いつもと同じくメアを抱きしめ頭を撫でる。
「そんなに怖がらなくても、今日はメアの役に立ちそうなものしか持ってきてないよ。ほら。」
「回復薬?」
「正解。新作だからまだ量産化されてないんだけど、メアにあげようと思ってね。どこか怪我してないかい?」
「演習なかったから、平気。」
「そっか。」
「?!」
何が起こったか理解するより先に、激痛が身体を走る。声を出すことも出来ない。息をするのがやっとで、押さえた腹部に生温かさを感じるのとは逆に、身体が震え気が遠くなるような寒さを感じる。
「かっ、はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」
「心配しなくても、急所じゃないから大丈夫だ。ちょっと痛いだけだよ。」
耳元で、優しくそう囁くオーレリアン。その左手には、いつの間にかメスが握られている。
「そろそろいいかな?さ、メア、怪我の治療をしないと。このままじゃ、“死んじゃう”からねぇ。」
矛盾した言葉をはきながら、彼はもうほとんど意識を失いつつあるメアの上着を手早く脱がせ、シャツをめくる。メスを根元まで深く刺し込まれ、引きぬかれた傷口からは、ダクダクとあふれるように血が流れ落ちている。そこに、先程回復薬だと言っていたゲル状の薬を塗ると、あれほどの出血がみるみる止まる。
「…――たっ、痛いっ〜!!」
「うん、急速に細胞を復元することが出来るんだけど、激痛が走るみたいなんだよね。改良点があるならソコなんだろうけど、そんなの楽しくないよね?」
ジタバタと、泣いてもがくメアを嬉しそうに抱きしめるオーレリアン。傷跡一つ残さず回復した頃には、もう指を動かすのも面倒に思えるほど、メアは疲れきっていた。
「……嫌い。」
「ん?またまた、照れるなんてメアは可愛いね。ほら、ご機嫌直して。薬はあげるし、籠に欲しがってた黒ウサギ入れてあるから。それじゃ、お仕事頑張るんだよ?」


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