月明かりの下 悪夢は始まりの鐘を鳴らす 1

「シュワルツ、見て!綺麗、あれがお日様?」
「このバカたれっ!総統もヴォイスメールで言ってたろ、『地下で育ったお前が、突然日中外に出ては目をやられる。夜に出て、外の明るさに慣らすと良い。』ってな。聞いてなかったのか?」
「“あの方”の真似、全然似てないよ?」
「ポイントはそこじゃねぇ!今は夜だから、あれは月だ!!ったく、世話が焼ける。」
「ふぅん。じゃ、お昼になったらどの位明るいんだろう?楽しみだね、シュワルツ。」
「メア、遊びに来たんじゃないんだぜ?分かってるか?」
「分かってる。でも、初めて外に出たんだもん。どんなのか興味ある。どこで遊ぼうかなぁ?」
「仕事に来たんだろうが、仕事にっ!!…メア、お前、もう総統の“ペット”じゃないんだぜ?任務果たせなきゃ厳罰だし、下っ端のままじゃ総統に会うことだって出来ねーぞ?!」
「シュワルツ、あっち面白そう。ほら、行こう♪」
「話はちゃんと聞け―!!」
ジタジタと手足をバタつかせる黒ウサギを抱え、少女は楽しそうに歩きだす。青いバラをあしらったヘッドドレスに、惜しげもなく手の込んだレースをあしらったゴスロリドレスを身に纏う。マントをなびかせながら、ダンスでも踊る様に街に向かって歩いていく。生きていく事に必死になっている人が多いこの世界で、場違いなほど着飾っている少女。
今、この地域は浄化派と汚染派の抗争が激化していた。連日のように、あちこちで汚染生物が暴れまわり浄化プラントが壊され、テロ活動者が軍による掃討戦で狩られていく。富裕層なら、護衛も付けずこんな場所を歩き回るはずもない。他に金を持っていそうな人種と言えば、軍人か傭兵くらいのようなものだが、そのどちらにも到底あてはまりそうにもなかった。

「ヴィルフリート様、私、組織に入りたいです。」
「…メア、そんな事をして何になる?」
汚染派組織、レリウーリア。ここ10数年で一気に勢力を拡大したこの組織の長は、総統と呼ばれる彼、ヴィルフリート=ダールベルクが支えている。若干27歳にして闇に君臨する彼は、冷徹非情の悪魔そのもの…美しき絶対者は、まだ汚染される前の清浄な世界を思わせるような緑色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ少女を見下ろしていた。
「いつもヴィルフリート様がおっしゃってるんですよ、この世界は消えるべきだ、って。」
「人は愚かだ。憎悪と悲しみの連鎖から逃れられず、自身に勝る力の前には無力だ。」
冷たくそう言い放つ。ヴィルフリートは、テーブルに並べられた豪華な料理を優雅な所作で口に運び、時折足元に座る少女にも分け与え食べさせた。
「で、貴様もなにかくだらん欲でもだすつもりか?ペットの分際で。」
「むぐむぐ、ヴィルフリート、様。そんなに・食べれません〜、むがむが。」
一口では明らかに食べきれない量のライスを無理やりメアの口に押し込み、ニヤニヤ微笑むヴィルフリート。
「何のために組織に入る気だ?まさか俺の為、などと口にするなよ?」
「私、“メア”だから。私は、ヴィルフリート様の見る夢…だからたくさんの人に、夢を見せてあげなきゃいけない。…最高の夢、永遠に続く夢…。」
彼女は、うっとりとした表情で彼を見上げる。ヴィルフリートは、彼女の細い顎を掴むと上を向かせた。
「お前ごときが俺の夢になるなどと、図々しいにも程がある。本気で言ってるのか、メア?」
「はい。」
「…籠を出たのなら、お前も他と等しく駒でしかない存在だ。俺が死ねと言ったら、死んでもらうことになるぞ?」
「私はただの夢…元から存在なんてしていない。そうでしょ?」


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