心惑わされるのは、

魔法界は、何もかもが今までの世界とは違った。


父に手を引かれながらすれ違う人々はみんなローブを羽織りとんがり帽子をかぶっていたし中には無用心にも杖がポケットに突き刺さったままの人もいた。
スリにあったらどうするのだろうか。
この時代政府でもない限りGPSなど一般人が持てるはずもないし、きっと泣き寝入りになるのではないか。
まぁ、最も、人様の魔法道具など危険すぎて手など出せやしないのだが(どんな呪いがかけられているかわかったものではない)

魔法道具。術具。呪い。
それを考えると、何も知らないまま魔法界に飛び込むのはあまりにも無謀ではないだろうか。見るだけ、触るだけ、関わるだけ、存在を知っているだけでも危険なものが多くあるという。頭が良すぎるのも困りものだが、無知もまた罪深く、困りものである。

知識は無駄にならない。
流石に朧ろげな前世の記憶まで知識というのははばかられるが、見聞きしているのにこしたことはないだろう。
父に聞くのも良いが、教育的指導という名の親バカが発揮されるであろうことは目に見えていた。本屋、図書館、あるいはその両方の場所を尋ねようとした私は、急に立ち止まった父の背中に、鼻先をぶつけた。





「イタッ」
「ああ、ごめんよ。ここが魔法使いの銀行、グリンゴッツだよ」
「ぎ、銀行・・・?」






父の背中を越えてその建物を目に入れると、あまりの大きさに目を剥いた。というか引いた。
聖職者に失礼かもしれないが、まるで神殿のようだ―――が、私にはよくあるゲームの怪しげなダンジョンにしか見えない。
ドラゴンとか、金棒を持った鬼が出てきそうな雰囲気をひしひしと肌で感じ取る。
というか、柱、曲がってないか。

重厚な造りの扉を開け中に入ると、両端にカウンターがあり、中では子鬼らしき生物がカチャカチャと計りをいじっていた。私たち以外にも魔法使いはちらほらいたが、硬貨の擦れる音ばかりで、話し声は全く聞こえてこなかった。父がカウンターまで行く、大きな目玉が私たちを睨んだ。うわ、愛想ない。






「何用で?」
「マグルの紙幣と換金して欲しい」






父がビジネスバッグから取り出した、とても分厚い封筒。
本?
辞書?
いいえ、あれは紙幣です。
子鬼の前のカウンターに置かれたその封筒は、まぁなんというか、一般家庭ではあまり目にかかれない厚さである。封筒を受け取った子鬼は、かけていた眼鏡をかけ直して、奥へと引っ込んだ。







「ガリオン金貨、シックル銀貨、クヌート銅貨の3種類が魔法界の貨幣だよ。1ガリオンは17シックル、493クヌートになる。

・・・紙幣じゃないから、持ち歩くにはちょっと不便だね」
「重そう・・・」
「財布も買いなおそうか、丈夫な革にしよう」
「うん」




ちなみに私が今まで使っていたものは、紙幣、カードが入る、比較的薄い長財布だ。
重い貨幣を入れるには不安がある。しかしそれでも貨幣はかさばるし重い。そうだ、後で拡張魔法を試してみよう。



今日こちらのに来て、魔法は万能ではない、ということが身にしみて理解できた。
杖を振れば洗濯も料理も掃除もしてくれるが、宅配は梟、紙は羊皮紙、筆記用具は羽ペン、移動手段は暖炉ネットワークか汽車、馬車、箒と、マグルより時代が少し古い。移動キーや姿あらわしという手段もあるが、使用するのに許可や資格が必要だったりと面倒くさい。
何より“電気”がない。
電化製品が溢れていた現代とは違い、音楽さえ気軽に聴けない。劇場に足を運ぶか、運んでもらうかというような具合だ。電話もできない、冷蔵庫もない。手紙や郵便物を届けるのは梟の仕事だが、あまりにも大きな荷物の場合はどうするのだろうか・・・実はナイトバスは配達もしているのだろうか、と思ってしまった。まぁ、拡張魔法を使ったりしているのだろう。



ぐちぐちと長ったらしく書いたが、魔法界はマグルの世界観に慣れた者には少々辛いのである。











「・・・遅い」
「まぁ、マグルの銀行と違って全部手作業だからね」








換金の時間が長い。
予約していない病院の待ち時間のようだ。
確かに、マグルは機械を使うため人と時間を必要としない。グリンゴッツの子鬼は金銭にシビアなようで、本物の紙幣か調べ、しかも父が大金を用意したこともあり、余計に時間がかかっているらしい。

普段何気なく使っているATMの偉大さを知った出来事である。











「あと少しかかると思うから、先に本屋でも寄るかい?
・・・あ、その前に杖の具合も見てもらおう、オリバンダーの店で・・・・・・


え、どっちか残れだって?」






銀行の信用問題で、私か父かどちらか一人残らなければならないらしい。
結局父が残ることになり、渋々ながらも出歩く許可を貰った私は、杖職人のオリバンダーという人の店へ向かうことになった。







「いいかい、裏道には絶対に入ったらいけないよ。悪い人についていってはいけないよ、話すのもだめ、知りません関係ありませんで逃げなさい。目を合わせるのも危険だ、ダリアは可愛いから、すぐに連れ去られてしまう。変な店に連れ込まれでもしたらシルに怒られてしまう・・・ああやっぱり僕も一緒に行きたいんだけど」
「いや大人しく待ってて」



















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