夜空を見上げ、


それからミシェルから、信じられない話を聞いた。父が話したくなかった気持ちも分からなくもない・・・が、こうして人の口から耳にすると心臓に悪い。本当、いきなりはやめてほしい。いや、本の主人公のように「ある日突然梟が」となるよりはましかもしれないが。





クローヴィス家は、魔法界では割と有名らしい。
“闇に最も近く遠い一族”―――だとか。

純血、というのは親が代々魔法族で、非魔法族の血が入っていない生まれの者をさすのだという。純血思想、非魔法族蔑視が根強いと聞いた。
まぁ、そこは自分としてはどうでも良い。
純血だからといって人格ができている訳ではないし、第一今まで非魔法族の中で暮らしていたのだから、今更何をどうしろと、というのが結論だ。そんなもので優劣をつけられたら堪ったものではない。しかし、闇に近く遠い存在とはどういうことだろうか。

私がこれから通うという学校では差別があるとのことだが、一人の人間として中身を見れない者とは付き合う必要はないと思う。むしろ、そんな友達はこちらからお断りだ。


そう、学校といえば、ホグワーツ。
どこかで聞いたことがあったと思えば、前世の記憶の中にあった、児童小説の舞台となる場所である。グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフ。新入生は四つのいずれかの寮に振り分けされ、そこで七年の学校生活を過ごす。第一巻は自分が中学生のころに発売されたはずで、たしかその後の数巻も読んだことはあるが、細かい内容までは覚えていない。無理もない、誰も次に生まれる先がそんなファンタジーな世界だとは思うまい。





「ああ、ええと、それで、杖がこれ」





プレゼントとして差し出されたのは、象牙のように白く、滑らかで光沢のある細長い棒。


魔法使いには欠かせない、杖。





「これが、杖ねぇ」




バルコニーで風にあたりながら、「ダリアの物だよ」と渡されたそれをくるくると弄ぶ。呪文など覚えていない。が、明かりが欲しいと思えば杖先に淡く光が灯ったので、間違いなく自分のものなのだろう。相性が悪い同士は、お互い触れる事さえ嫌悪するそうだ。と、杖に光を灯したのを見たミシェルがにやにやと笑いながら言っていた。

よかった、これでわざわざ店へ行くこともない。
と、そこで気がついた。自分は今まで一度も魔法界に接触していないことに。もちろん、杖を選んだ記憶もない。




「ううん、でも、私の杖?本当に?」



父は“私の物”といったけれど、私の“杖”とは言わなかったのだ。

そうだ、そもそもこれは“プレゼント”だ。私に渡したのは父だが、選んだのは父ではないかもしれない。誰かが、自分に贈ってきたものかも知れない。




「っ」



途端、表しようのない寒気が背筋を駆け抜けた。

決められた道を、知らず知らずの間に誘導されているかのような。
誰かが自分の内側を覗いているような。
気味が悪い。

月の光に反射して神々しく輝く杖。
私が魔女だというのなら、これからの人生に杖は必要不可欠になるだろう。

ホグワーツ。
知っているけれど、知らない世界。学校に入れば、父はいない。頼れるのは、この杖と、前世の記憶だけになる。





「ダリア、まだ起きていたのかい」




ぼんやりと夜空を見上げていると、ふいに、部屋のドアがノックされ、父がひょっこりと顔を出した。




「その、眠れなくて」
「ダメじゃないか、明日も学校があるのに…それに、週末には買い物に行くんだから、しっかり休まないといけないよ」
「うん」



バルコニーから部屋に戻ると、父の手にある小さな箱が目に入った。
私の視線に気付いたのか、父は微笑みながら、箱を開けた。





「シルヴィアの―――ママの婚約指輪だよ」




柔らかなミニクッションに包まれている、金色の指輪。




「結婚指輪は僕とママがお揃いだからね。ダリアには寂しい思いばかりさせているし。お守りがわりに、学校へ持って行きなさい」
「ママの大切なものじゃないの?」
「ダリア、君も僕らの宝物なんだ。ずっと傍にいたから、慣れるまで時間もかかるだろうけど・・・これには守護の魔法がかけてある、なにがあってもきっとお前を守ってくれる」




箱を受け取り、指にはめてみるが、まだ指輪のほうが大きい。
その様子がおかしかったのか、くすくすと父が笑った。





「買い物の時に、チェーンも一緒に探そうか」










後に聞いたが、父はレイブンクロー生で、母はグリフィンドール生だったそうな。

















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