変わらぬ愛を、



私の心配は杞憂に終わったが、別の意味で、冷水をかけられたような衝撃を受けた。





「ねぇ知ってる?
ダリアって魔女なのよ」




ミシェル・クローヴィス、と名乗った女性は、父方の親族で、曰く、とある人からの伝言を伝えにわざわざ足を運んでくれたらしい。


まるで「飼ってる猫が子供を産んだのよ」とでもいうくらいの軽さで放たれた言葉。
それを告げた彼女は、驚きで口を開いたままの私を無視して紅茶を啜った。



「え?ええっと、その、今なんて?」
「魔女」
「だ、誰が?」
「もちろん、貴女が」




「アベルったら、こっちで生活するって言ったきり何の連絡もくれないんだもの。風の噂じゃ、何年か前にシルヴィアも亡くなったっていうし。噂で聞くこっちの身にもなってほしいけど、周りに気を遣う暇もないくらい憔悴しきってたらどうしようもないし。まぁあんなにラブラブだったものね、寂しい気持ちも分からなくもないわ。

それにしても魔法を使ってる様子もないし、もしかしたらダリアは何も知らないんじゃないかって思ったんだけど、やっぱり、来てよかったわ」



ミシェルは半ば呆れたようにため息を吐いて、私の横に腰掛ける父を睨みつけた。




「ミシェル、言い訳のように聞こえるかもしれないが、手紙が届いたら、全部話すつもりだったんだ」
「ええそうね、一人娘だもの。でもね、大切なのは分かるけど、まず自分が何者なのか、知る権利があるわ」
「そ、それは・・・ダリアには、まだ早いんじゃないか」
「おだまりなさい。早ければ早いほど良いの。このご時世、知識はいくらあっても足りないくらいよ。分かる?知識は力なの、どうしようもない時ほど、そういう力が役に立つものなのよ」




目の前の会話についていけない私は、首を傾げるばかりだ。

名前で呼び合うほど親しい間柄なのだろうか。いや、親族なのだからファミリーネームになるのも奇妙だが、友人というよりも母に叱られる息子の絵のように感じられて仕方ない。それか、姉と弟。

よくよくミシェルを観察すると、確かに、父を似た雰囲気がある。
エメラルドグリーンの瞳は、クローヴィス特有のものなのだろうか。かくいう自分も同じ目を持っているが、彼女の方がキラキラと輝いていて、謎めいて見えた。


緩くウェーブを描いたプラチナブロンドの髪に、黒いドレスを纏った見事に凹凸のある肢体、胸はボリュームを保ちつつも大きく、腰は細く括れ、柔らかく弾力のありそうなヒップが艶めかしい。はっきりした目鼻立ちに、血のように真っ赤な唇。すらりと長い手足。目眩を起こしそうなほどの美貌。ぞく、と背筋が凍るように美しい。


傍から見ればどこからどう見てもお似合いの美男美女。
二人の会話を耳にすれば、そんな甘ったるい関係でないことは明白だが。仲良く口論している様子に、どこかホッとしている自分がいた。






「と、とにかく!僕の許可なしにはこの子はどこにも行かせない!どんな目に合うか分からないんだ、少しでも近くにいられた方が、僕が守れる!!」
「なによ、うるさいわねこの小心者!アンタに何ができるっていうの?守る?何から?全てから?無理に決まってるじゃない、どうせ今みたいに逃げるつもりでしょ?逃げ切れると思ってる?すぐに見つかったくせに、どの口がそんなこと言ってるの?親だからって何でもかんでも干渉していいと思ってる?人としての尊厳は?決めつけるばっかりなの?どうするのがこの子にとって良い未来になるかなんて、この子にしか分からないのよ?その選択肢を広げてあげるのが大人の役目でしょ、情けないわね!!

この子はホグワーツに入学するのよ、今年ね!!!」






美人が淡々と怒りを露にする姿はとても迫力がある。
普段は堂々としている父が、ミシェルの攻めの言葉にたじろいでいる。こういう反応を目にするのは久しぶりで、確か生前母と口論したときだったか。

父の珍しい姿に驚いたものもあるが、それよりも、聞き捨てならない単語が出てきた気がする。




ホグワーツ?
どこかで聞いた覚えのある言葉に、声が漏れた。






「まじか」









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