痛いほどに、


母が亡くなっていからというもの、父はより一層、私を可愛がるようになった。
スクールに通い始めてからもそれは変わらず、送迎のバスがあるにも関わらず、始終私と一緒にいたがった。

正直煙たいものもあるが、父親である以前に“愛する妻を失った男性”というフィルター越しに見てしまうため、強く出れないでいる。










「いいなぁ、あんなパパ欲しい」


何も知らないクラスメイトは、校門に立つ父を窓から眺め、無邪気に笑う。



「格好いいし、優しいし、とっても素敵ね」


そうね、と返事をして、帰り支度を始めた私は、どこか冷めているのだろう。
無神経とも受け取れる言葉にも何ら感情を示さず、淡々と会話する自分を、周囲の大人たちを始め、薄気味悪がって近寄らなかったものだ。

だがしかし、分かって欲しい。
成人済の女性が、今更どうやって二桁になるかならないかくらいの女児と同じように振舞うことができるだろうか。


「ダリアってほんと、クールね」
「あんなパパがいたら、自慢しちゃうのに!」
「彼氏なんてしばらくいらないわね!」


複雑だ。
私が母の立場であったなら、残された家族の幸せを切に願うだろう。夫が幸せになれるのなら、別の女性を愛し、結婚しても良いと思う。
もちろん、娘の立場である今も、そう願う気持ちは変わらない。
しかし、彼女がいなくなり数年たった現在でも、毎晩のように母の写真を眺めては浴びるようにアルコールを口にする姿を見ていると、とてもではないが次の恋へ、などとは言えなかった。どこまでも一途である。



―――少しだけ、救われたような気がした。








「パパが待っているから、帰るわ」
「また明日!」
「ええ、また明日」






校舎を出ると、黒いスーツを見事に着こなした、背の高い男性が私に駆け寄る―――父だ。





「おかえり、ダリア」



そう言って私のスクールバッグを自然な動作で奪い、軽くなった手に自らの大きな手を重ね、斜め前を歩き出す。




「今日はまっすぐ帰ろうか、プレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「そう、とても驚くと思うよ」



久しぶりに聞く楽しげな父の声に、なんだか私まで嬉しくなる。


何かな。
いつもより少しだけ早足で家に帰ると、リビングからふわりと懐かしい香りが漂ってきた。


途端、息が詰まった。


心臓を鷲掴みにされたように呼吸が止まり、足が動かなくなる。
玄関から動かない私を見て、父は首を傾げながらも、リビングの扉を開いた。





「貴女がダリアさん?初めまして」




そこにいたのは、一人の女性だった。
彼女は私を見つけると、少しだけ悲しげに笑った。













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