君を、想う

こぽ、という水音が聞こえる。
とんとん、という振動が伝わる。
それに反応すれば、遠くの方で誰かが笑った。





私の両親は、とても優しい人だった。


「ダリア、おいで」


私を呼ぶ声はいつだって穏やかで、柔らかい。
まだ幼い私は四つん這いになることしかできず、焦れた彼らの手によって脇をすくわれ、宝物のように抱きしめられるのだ。


「この子は君にそっくりだね」
「瞳は貴方に似ているわ」


彼らはそう言っているけれど、私はまだ、自分の容姿を見たことがなかった。


「可愛いなぁ、この子もいつか誰かの奥さんになるのかなぁ」
「あら、もうそんなことを言ってしまうの?」
「女の子の成長は早いっていうからね」


リズムよく叩かれる背に、意識が沈んでいく。


「おやすみ、僕らの愛しい子」


いつの間にか、頭上から降ってくる声は聞こえなくなった。






次に目を開けたとき、私は絶望した。
鏡に映る幼女は、自分ではなかった。
ふわふわと揺れる蜂蜜色の髪。宝石のように美しいエメラルドグリーンの瞳は、恐怖と驚愕と、不安がぐちゃぐちゃに入り混じったように歪められていて、今にも泣き出しそうだ。
いや、それだけではない。
血の気が失せ、もはや青白い、と形容するに相応しい白く透き通った肌。


「わたし?」


夢だと思っていたあの優しい温もりは、残念ながら現実で。


「だれ?」


自分の発した言葉に、両親だと言った彼らは揃って閉口した。



ああ、現実はどこまでも残酷らしい。
黒髪黒目の純日本人だった私は、いつの間にか外国の赤ん坊に生まれ変わっていた。






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