幸せそうな笑顔も、

コンパートメントに戻ってきたリリーは、興奮した様子で仕入れてきた情報を教えてくれた。

組み分け帽子のことだとか、魔法薬学教授が変わっているとか、生徒を挟む階段だとか、動く絵画だとか。
最も、嬉々として語る彼女の表情に釘付けだったセブルスが、話の内容を頭に入れていたかは不明である。




「私たち、一緒の寮になれるといいわね!」













勇猛果敢なグリフィンドール。
真面目で勤勉なレイブンクロー。
忍耐強く素直なハッフルパフ。
狡猾なスリザリン。


大広間の壇上で、古びた帽子は叫ぶようにして歌った。


自分の周りにいる新入生たちは不安の色を隠せていなかったが、リリーだけは、名前を呼ばれるのを今か今かと待ち望み、そわそわしていた。



「エヴァンス・リリー!」




「じゃあ、行ってくるわ、先にグリフィンドールで待ってるわよ!」
「ああ」
「いってらっしゃい」



人の間をかき分けて消えたリリーの後姿を見つめるセブルスに、聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で、言ってみた。




「リリーは間違いなくグリフィンドールね」
「・・・レイブンクローの可能性もあるんじゃないか。それなら僕だって、同じ寮になれるかもしれない」
「いいえ、絶対にグリフィンドール。賭けてもいいわ」



ダークグリーンのローブを羽織った女性が、次々と名前を呼んでいく。
スリザリン、と振られる新入生は少ないようだが、他の寮は比較的人数が調整されているような気がした。


壇上の教師陣をちらちらと観察していると、白い髭を蓄えた、サンタクロースと似た風貌の老人と目が合った。

アルバス・ダンブルドア―――フルネームはもっと長いらしいが、生憎忘れてしまった。
深いブルーの瞳がきらりと輝いていた。



「(ああ、なるほど)」



その瞬間、少しだけ、ヴォルデモートの気持ちが理解できた。
なんというか――――落ち着かない。
彼は男性であるから表現としてはおかしいのだが、まるで聖母マリアを前にしたかのような、罪を吐露してしまいたくなるような、慈悲に満ちた目をしていた。
頼っていい、我慢しなくてよいのだと頭を撫でられているかのような温かさ。


落ち着かない。
闇の住人たちは、ヴォルデモートは、その温もりに対して苛立ち、どうして良いか分からず、けれど屈服したくないという焦りから彼を苦手としているのだろう。





「クローヴィス・ダリア。こちらへ」





自分の名前を呼ばれているのに気づき、意識を引き戻す。


数の減った新入生の間を抜けて壇上の椅子に座ると、すぐに帽子によって視界が遮られた。心なしか埃くさい。マスクしてこれば良かった。





<クローヴィスの血を引く者か・・・いやはや、これも運命か>
「運命?」
<左様。君の父、母、そして祖父母もまたホグワーツの卒業生じゃ。クローヴィスの血縁は皆優秀だったが、変り者ばかりでのう・・・目立った問題は起こさないのだが、何を考えているのかさっぱり分からん>
「私は、祖父母は知らない。母は私が幼いころに亡くなりました、今は父だけです」
<ふぅむ、それは残念じゃ。他の女性の影も見えるが・・・ううむ、はっきりせんのう>
「誰?ミシェル?」
<おお、あやつと会ったのか。なかなかの強欲じゃろ?クローヴィス家らしからぬ、非情さと狡猾さを備えた素晴らしい魔女じゃ。
彼女はスリザリン家とかなり親しくしておっての、いや、彼女こそ・・・いやいやわしが言うのも野暮というもの、いかんいかん、年寄りの悪い癖じゃの。

ううん、ならば、わしが悩む必要もあるまい>
「え、待って、ミシェルが何?」
<心配無用。大丈夫じゃ、君が君である限り、誰も君を傷付けることはできぬ>




頭の中にするりと入ってくる帽子の声は、穏やかで先ほどまでの心のざわめきが嘘のように静まっていくのを感じた。





<どの寮でも君は上手く溶け込めるじゃろう。だが、偽りなく、自分と向き合い、過去を慰め、真の友を得たい。そして己の信念を大切にしたいのであれば、決まっておる>
「スリザリン!!!!」





かくして、私はスリザリンへ招かれた。

















<君はこの状況を読み込めずにいる、違うかね>


スリザリン寮の、当てが割れた自室のベッドの中で、ダリアはひとり、組み分け帽子の言葉を思い出していた。



困惑している心をああも容易く見透かされるとは、前世の記憶があるとはいえ、長年動き続けている魔法界の物には流石に敵わない。

リリーの様に分かりやすく興奮してはいなかったが、そこは精神年齢が三十路を迎えた女性のプライド故か、表に出していなかったが、確かに動揺していた。


本当に、自分はこの“世界”にいるのだと。
呪文一つで人を殺すことが出来る、夢ばかりではない魔法の世界という、現実が。


今になって、ようやく分かったのだ。








「父さん、元気かな」



今を生きているのだ。



日本人だったころの自分は、記憶の中にしか存在しない。

今の家族を一番に考えて、大切にするべきなのだ
分かっている。
理解もしている。
けれど。









「諦めきれないよ・・・」














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