Mement mori | ナノ

【「だいすき」】


 


 部屋に戻って寝台に倒れ込む。この一カ月、結構充実してたのに、もう終わりか、そりゃちょっと筋肉痛らしきものになって身体動かしにくくなったり手が皮向けて気持ち悪い感じになったりしたけど、それでも楽しかったんだよな、何だかんだいって。
 武器を持つのが駄目なら、せめて治癒術ってやつを使えるようになりたいな、でもそのためにはぼうでぃぶらすてぃあとかいうのが必要なんだっけ。わたしやっぱり欲張りかも。誰かのためなんて建前で、全部が全部自分のために繋がってる。誰かに何かをしてあげたいのも結局自分のため。自分、じぶん、じぶん。わたしみたいなのを自己中心的って「邪魔するよ」言うんだ。ネガティブなことをぐるぐる考えてると、三度、扉を叩く音とレイヴンの声。

「あいよー」

「ほいっみうちゃん、パス!」

「うぇ、な、ふわっ」

 部屋に入ってくるなりレイヴンはこちらに何かを投げて寄越す。きらりと夕日を反射して光ったそれを慌てて受け取るけど、慌て過ぎて何度かお手玉上体。はいそこ笑うなレイヴン。
 漸く落ちついて手に取ったそれを見れば、赤い宝石、みたいなのがはめられた何かの装身具、かな、綺麗。でも突然どうしてこんなものを、なにこれ、プレゼント?

「それ、なーんだ」

「うー……綺麗な石」

「ぶっぶー。残念、正解は武醒魔導器でした!」

「ぼうでぃ……、………!!」

 彼の言う意味に気付きわたしは目を見開いた。こ、これで武器が無くても治癒術使える、きたこれ!
 名残惜しさが勝るけど、わたしは寝台の上に投げ出していた弓を取りレイヴンに差し出す。短い間だったけどわたしの相棒役ご苦労さん、おもしろ弓くん。

「え、なに?」

「取れ。わたし、駄目のやつ。でしょ」

「………えーと、俺様そんなこと一言だって言ってないわよ?」

「え」

「明日からおっさんがみっちり稽古つけたげる。ビシバシいっちゃうから覚悟してよね」

 なん、え、まじですかレイヴンさん。やばい泣きそうだどうしようレイヴンだいすきあいしてる。感極まってるわたしの様子に気付いているのかいないのか、レイヴンはにこにこ笑ってこちらの様子を眺めていた。

「レイヴン、あ、わたし、」

「その魔導器くれたのドンだから、後でドンにもお礼言っとくよーに」

「あぁ、ああ。ありがと、嬉しい」

「喜んでくれたようで何より。それと、治癒術にも興味持ってたみたいだし、この本もあげちゃう、おっさん大サービス」

「レイヴン、すき、だいすき!」

「あらま。嬉しいこと言ってくれるわね」

 本と、魔導器と、弓を抱きしめて、レイヴンに精一杯気持ちを伝える。本当にだいすき、感謝してもしきれない、大好きすぎて苦しいくらいだよ、何回もだいすきって言って、もっとたくさん言いたかったんだけど。レイヴンがはやくドンの所にいけって背中を押すから、本と魔導器と弓を抱きしめたまま外に飛び出す。

 飛びこむようにしてドンに抱き付くけど、微塵もよろけない。ドンの安定感はすごい。そうしたら、何があったのか全てを悟ったらしいドンが、大きな手でわたしの頭を撫でてくれた。やっぱり、おじいちゃんみたい。すぐ傍で見てたハリーは呆れ交じりだったけど「よかったな」って言ってくれた。
 みんな、だいすき。だいすき。わたし、絶対恩返しするから。だからもう少しだけ待ってて。


(俺は両手で顔を覆う。不意打ち、された気分)

110804


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