Mement mori | ナノ
【外に出たい】
「レイヴンレイヴンレイヴン!!」
「はいはい、どったのみうちゃん」
本部の廊下で目当ての背中を見つけ、突進する勢いで駆け寄る。本気で突進しようとしたのに、レイヴンはくるっと振り向いて軽々とわたしを受け止めてみせた。くそう、やっぱり男の人って力強いんだなあ。
おっとそうじゃない、わたしはレイヴンに頼みごとがあって彼を探していたんだった。さっきドンに思いっきり頭下げたらやっと許可を貰った、そう、やっと。
ここまで長かった、二カ月近くかかったのかな思ってみれば。別に不自由なんか感じはしなかったけどさ、せっかくの知らない世界なんだから、色んなものを見て聞いて知って触りたいと思うのは普通だよね。
「いいって。ドン言った、連れてレイヴン、たのむ」
「えーと……取りあえず、落ちついて。もっかい話してみ?」
いけない、焦りすぎた。わたしの言葉があまりにぐちゃぐちゃで理解できなかったらしいレイヴンは、わたしを落ちつかせるように両肩にぽんと手を置く。
恥ずかしくて顔が熱くなった、改めて思い返すとはしゃぎすぎじゃないか自分あああああ恥ずかしい。赤くなっていると思われるわたしの顔に気付いたレイヴンはにたりと笑う。これ以上見られたくなくて両手で顔を覆った。
―――深呼吸。よし、頭の整理もついたしもう大丈夫。
「オレが外に出ること頼んだ。ドンはレイヴンが一緒だと許すって」
「なーるほど。みうちゃん外出たかったのね」
「ああ!」
「そゆことなら俺様に任せなさい、早速行くわよ!」
大きく頷いたわたしの手を取ると、レイヴンはいざゆかん!みたいなノリでユニオン本部の出入り口へと向かう。準備とかしなくていいのかと言う間も無かった。どうせわたしは一文無しだし、いつもどおりハリーのお下がりの服を着てるから問題はないけど。
外の世界と屋内を隔てているように感じていたその境界線を越えるという行為は、意外とあっさりしたもので、ああほら、振り向いたらそこにはユニオン本部がある。
やっぱり大きな建物だった、そりゃあたくさんあるギルドの属する組織の本部だもんなぁ、大きくて当然だった。
初めて出た外の世界、レイヴンに手を引かれながらも大きく息を吸う。その場の空気を全身に取り込む。美味しい。元いた世界と違って空気が、澄んでいて、目に入る景色も聞こえる喧騒も街行く人たちも皆、目に映るもの全てが新鮮。きっと今のわたしの顔は純粋な子供よろしく顔が輝いているに違いない。
改めて自分が今いて歩いている場所が、違う世界なのだと実感した。
110803
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