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「寂しかった」


オレの後ろの、街路樹の幹越しに誰かが言った
言ったというよりも歌ってるみたいで、不思議な響き
ずるずる、崩れていく音
ついに足が持たなくなったらしい、さっきからガクガクだったから当たり前



「転生者とか、異能者だっていうだけで、これだもん」


これって言うのは、つまり、これ
オレに殺されかけてるっていうことかな、んー?
そうそう思い出した、オレの今日の仕事
とある異能者だけで構成された集落を殲滅すること
雇い主のなんとかさんはオレも転生者だってこと知らないんだ、おかしいね

でもまぁ骨のない雑魚ばっかで今頃皆転生準備中(オレの手によって)
最後に残ったのが、この逃げ延びてる女の子なわけでして
もう逃げられないみたいだから、のたのたと幹の後ろへ回り込む
真白な服が血飛沫で染められていて綺麗だった



「もう、転生なんか……したくない、なぁ」


首を絞めてるわけでもないのに絞り出したような声
苦しいのかい?辛いのかい?
そういう時はオレに面白おかしく殺されちゃってくれるといい

オレは「バイバイ」と軽く挨拶して、槍を振り翳す
切り刻むのは好きだけどさっきさんざんやって飽きたし
この娘さんだけは楽に、一突きで殺ってあげよう


こういう場面でオレが笑うと、いつも相手は表情を凍りつかせる
だけど、目の前で死を目前にした娘さんは、何でだろうか、
柔らかく笑ってみせたんだ、どうして、なんで?




「お兄さんは、優しいね」




なんで、なんで、なんで
オレをそんな風に言う奴は正気じゃないって自分でもわかる
でも、どうしてどうして、わけが分からない、意味不明だぷー

オレは無意識のうちに、槍を持っていない方の手を動かしていて
いかに動こうとも怯えのひとつも見せない、つまらないお嬢さんの頭の上にのせた





「何でそんなこと、オレに言うの」




今度こそ、ふっと力の抜けたように笑んだ少女を
オレはもっと、朱色に染める
永遠のようで一瞬のこの時はオレにいつも恍惚を与えてくれるのに
今日は調子がわるいのかな、何となく胸のあたりが苦しくてたまらなかったんだ






さぁ、ね






曖昧にはぐらかされた答えは
もう二度と聞けないんだね

(冷たくなっていく君を前に)
(オレは温度のない雫を落とした)



fin.
09.0616.



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