絶P | ナノ
大好き?⇔大嫌い!







ジークは本日何度目になるか分からない溜息をついた
手を伸ばさなくても届く位置にいるハスタが意味ありげににたりと笑みを深くする
まともな返事が返ってくることを期待せず、ジークはあくまで形式的に問いかけた


「…何の、つもりだ?」

「んーん、何だと思う?」

「質問に質問で返すのはあまり感心されたことではないな」


そう言うと、ジークはもう一度溜息を吐きだす
対してハスタはというと反比例するかのようにより一層楽しそうに顔を歪ませていた
無駄に長い両腕と、壁の間にジークを閉じ込めて、それはもう楽しそうに

ジークにしてみれば何が楽しいのか、甚だ疑問であるのだろうけど
元々他人の意など気にすることなくわが道を行くハスタにしてみれば
不機嫌そうに顰められた顔でさえも楽しみを彩るスパイスになる、らしい


「あえて言うなら、イイコトしようとしてマス」

「お前の言ういいことが私にとっていいことである可能性が限りなく低いのだが」

「気にしたら負けだポン」


言うが早いか、ハスタは片手をジークの服の裾の下へと滑らせる
氷のように冷たい指先が腹部に触れ、ぞわりと肌が粟立つのがわかった
これは色々とやばい気がすると、彼はほぼ反射的に両腕を前に突き出そうとしたのだが
動きを読んでいたらしいハスタのもう片手に抑えられ、それは叶わなかった


「な、な、……っむぐ!」

「ちょーっと静粛にね」


言葉で反論しようとした血色の悪い唇がハスタのそれで塞がれる
なおもじたばたと暴れていたジークの、腹部のある一点に彼の指が触れた時
ジークは目を見開き、ガリっと侵入しかけていた舌に思い切り歯を立てた

仕方なさそうにはなれる青年は、口の端から赤い血を垂らしている



「やっぱり、」

「……」

「傷、残っちゃいましたネ」


罰が悪そうに顔ごと目を背けるジークの服の裾を掴んで、軽く捲ると
魚のように真白い腹の横を横断する傷があって、新しく薄い皮膚が傷を修復している最中だった
その刃物傷を作った張本人は、忘れもしない、このハスタ・エクステルミという男
彼は顔を合わせるよりも早くジークを殺そうと槍を振り被って、傷を負ったとは言えもし避けていなければ確実に死んでいただろう


「兄さんがオレのせいでキズモノ」

「否定はしない」

「じゃあ責任とってオレがもらっちゃってい?」


ハスタがつー、と指先で傷をなぞるとジークは体を強張らせて息を詰まらせる
今のジークは全力で「何だこの展開」と呟きたいのだが、口を開けば余計目の前のピンクを楽しませてしまうことになりそうだ
霞がかった頭でぼやぼやと考えていると、ハスタはその場に膝をついて、両手でジークの細い腰を掴んだ


「っ、貴様、何を…ッ」


「傷跡って敏感らしいよ、知ってた?」



解放された手でぐいぐいとハスタの肩を押し返しても全然効果がなく、体格の違いは偉大だとどこか遠くで思う(事実それだけではないけど)
そんなささやかな抵抗をものともしない桃色の青年は、剥き出しになった傷跡に艶めかしく舌を這わせた


「ぃ……ぁ…」


ぬるりとした感覚に体を震わせるジークの、この際どんな方法を使ってでも彼を退けようとして桃色の頭を掴んでいた手の力が抜けていく
掠めるように傷を舐めてみたり、軽く歯を立ててみたり、ちくりとした痛みと同時に押し寄せてくるのは訳の分からないもどかしさ
何故か自然と目頭が熱くなっていくのが分かる、例えるなら、熱に浮かされているような、そんな感覚


「ジーク、もっと聞かせて」


「………ッく…」


ああこれはやばい、と感覚でわかった、このままにしておくと本当にあらゆる意味で大変なことになりそうで
ジークはぺろぺろと半ば面白がって舐めていそうなハスタの顎に、出来る限りの力で渾身の膝蹴りを喰らわせた

それを食らったハスタは見事にのけぞり、舌を噛んだのか口を開きながら赤くなった顎を擦った


「いてェっ」

「っ……この、×××××が…!!」

「いやん、兄さんってばどこでそんな汚い言葉憶えてきたピョロかー」

「お、お前なんかもう知らない。暫く私の前に現れるなっ」


肩を怒らせて部屋を出ていくジークの背を、ハスタは大人しく見送った
その顔には最初と同じような、意味ありげな笑みが貼り付けられていて
『二度と』現れるな、とは言えないかつての兄の去り際の表情を思い出せば、暫く顔を合わせなくても大丈夫かもしれない
恐らく彼の、いや、彼女のあんな顔を見たことがあるのは、世界でただハスタ一人だけだろう、から

一方ジークの方はというと片手で口元を覆いながらあてもなく歩いて行く
どうしてだろう、頭の中がぼやけてはっきりしない、目の奥が酷く熱い、溶けてしまいそうなほどに


名前を知らない感情にジークが舌打ちするのと、ハスタが『次』を想像して笑顔を浮かべたのは、ほぼ同時だった













(ねぇ、兄さん気付いてる?)
(さっきね、君、林檎みたいなカオしてたんだよ)

(顔が、熱、い、風邪でも引いただろうか)
(奴に伝染ってなければいいのだが、)


fin.
09.0908.
雛様へ


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