絶P | ナノ
It's sunny day.







レグヌムの大通りを、一組の男女が歩いていた
男女と言っても、はた目から見て二人は恋人同士などには見えない
それは恐らく、女の仏頂面と、男のにやけ顔が悪いのだろう
良くも悪くも、二人の表情差は極端すぎたのである


「気付いたか?」

「んーん、何にデスカー?」

「今……スパーダがいた。こっちを見ていた」

「……すぱあだ。誰ソレっ、もしかしてお母さん?」


「気付いていたくせに」と呟いて、女が喉を鳴らしてくつくつ笑う
右目は眼帯に覆われていて、左目だけを細めて笑った

不服そうに男が唇を尖らせた
長身で体格のいい外見にそぐわない仕草を、一般人が見れば不気味に思ったかもしれない
だが雑踏の中、一人の男を改めてじっくり見る者など誰もいなかった

男女の瞳はどちらも赤い
白い眼球に血を一滴垂らしたようなその目は
決して振り返ることもなく、そして足が止まる事もなかった


「元気そうだったな」

「死んでたら面白かったのにねっ」

「ただじゃくたばらないだろ、奴は」

「名案発見。じゃあオレが殺」

「ダメだ、馬鹿かお前」


歩きながら、女が男の腕を肘で小突く
恐らく男の言葉は半分本気で半分冗談
それでも彼はここ数年、一人として人間を殺すことはなかった
かつては殺人鬼と恐れられていた男―――ハスタ・エクステルミが、人を殺さなくなった
まぁ人を殺さないのは当然だが、彼を殺人鬼として認識し恐れていた者が知ればどんなに面食らうことか

何にしろ、彼が人を殺さなくなったのは
その隣にいる彼女が、ストッパーの役目を負っているからなのだろう

自由奔放すぎて人の道を逸れに逸れまくっていた青年は
彼女にだけは、どこまでも従順だった







「幸せなのかな、スパーダは」

「えー、オレたちのがシアワセじゃないのかい?」

「……そうだな、幸せだな」



人込みに埋もれて見えなかった二人の手は、繋がっていた
指と指をしっかり絡め、もう二度と離すまいと

二人が望んだとおり、きっとその手は死が二人を別つまで、離されることはない

例え肉体的に離れたとしても、心は、離れないだろう


「でー、オレらここに何しにきたんだっけ?」

「…先刻終わっただろう。配達だ、ギルド関係のな」


「長居は無用だ、アシハラへ報告に戻るぞ」と、若干呆れた様子の彼女が言う
「あいよー」気のない返事と共に自由な方の手をゆるっと上げ
下ろす動作のついでに、女の頭の上へその手を置いた
思わず足を止めてしまったのは、既に港へと到着し行き交う人々の数が少なかったのもある

だけどそんなことより、彼の手の温かさに、改めて気付かされて驚いたのが大きい


あの時は、あんなにも冷たい手をしていたというのに



「―― どうかしたのか、ハスタ」


「いやいや何でもないでございますぴょろよ」


ひとしきり女の髪を撫で、というよりもぐしゃぐしゃに掻きまわすと
満足したのか、彼はその長身全体を天に伸ばして、大きな欠伸をした
それはごく普通の人間の仕草であるはずなのに
彼がそうすると、改めてその動作が人間らしいものであることに気づかされる

そう、ハスタも、彼女も、人間なのだ
ただつい千年ほど前にしがらみを持っただけの、ただの人間




「んじゃ、行こうか、   」



ハスタは彼女の名を愛しげに呼んで、相変わらず気味の悪い笑みを湛える
嬉しそうに首肯した女は、しっかりと彼の手を握って、前へと進んだ


手と手の間に隙間はない

武器を持つ時よりもずっと、つよく、かたく―――




(それは青空の美しい、晴れた日のことだった)


It's sunny day.
10.1031.


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