絶P | ナノ
今、後に続け









始まりとほとんど同じ色の空の下、旅は終わりを告げた
大通りの方では人々が歓喜に叫んでいる、レグヌムとガラムの代表が講和条約に調印したと
これで徴兵法も治安維持法も異能者捕縛適応も全部取り消しだ




ジークは先刻―――レグヌムに入ってからすぐ、広場にいた写真屋に撮影してもらった写真を太陽に翳す
四角に切り取られた風景の中、七人と一匹が笑っていた
その七人の中に含まれるジークも驚くことに笑っていて
自分はこんな顔をして笑うのかと、感心を覚えてしまったくらいだ
後ろにはもう一枚重なっているのだが、それは風景の八割をエルマーナとコーダが占領している

写真に写るというのは初めての体験だった、しかしあれほどに楽しさを感じる撮影は最初で最後だろうと彼女は思う



写真の向こうには建物に切り取られた空
旅が始まった頃と大差のない空だったが
少なくとも今この瞬間、青空が繋ぐ世界は平和なのだろう




「で、よォ。お前マジでどうすんだよ?」


ベルフォルマ邸の塀に寄りかかり、スパーダは帽子を指でくるくると回しながら尋ねる
ジークは肩にかけていた長槍を背負い直し、小さく唸ってから答えた


「…そうだな。まずは黎明の塔に行こうと思う」

「は、黎明の塔?何でそんな―――」


少年の言葉は途中で止まった
ついでにくるりくるりと回されていた帽子の動きも停止する

黎明の塔には、まだ『彼』の遺体が残されているのだ
幸いとでも言うべきか、講和会議がかなり急だったのでまだどの軍も黎明の塔に立ち入ってないらしい
平気な顔をして振る舞ってはいるが、口で何と言おうとかつての半身を再び失ってしまったのだ

いくらジークと言えど、心に傷を負わないはずが無い


「あと、マティウスとチトセ。あいつらも弔ってやりたい、チトセは…故郷に帰してやりたいし」

「…お前にしては、優しいな」


少し尖った口調のスパーダに、ジークはふっと軽く笑んだ
そして自らの掌を眺め、手を開閉しては不思議そうに目を細める


「…もう、天術は使えない。天地が一つになったから。…それでも、生まれ変わりって奴はあると思うんだ」

「そう…かもな。もしかしたら、あるんじゃねぇ?」

「…天術が使えなくとも、私の生活はあまり変わらないな。その用事が終わったらまたギルド生活だ」

「あ、その事なんだけど、」


全身を伸ばして出発の準備を整えるジークに、スパーダが珍しく躊躇いがちに声を上げる
何事かと隻眼を瞬かせれば、彼はどこか照れたような様子で頬を掻いていた
声をかけたのはあちらなのに続きがなく、ジークは首を傾げる

やがて、スパーダはしどろもどろに話し始めた


「…オレの家に来ねぇ?」

「………?」

「や、んな本気で疑問向けられても」


がしがしと若草色の髪を乱して、少年は唸る
こういう時に限って上手い言葉が見つからず、台詞を組み立てるにも無駄に時間がかかってしまう
結局自分には飾った言葉など似合わないという結論に至り
スパーダは出来るだけ単純かつ明快な言葉だけで伝える事にした


「あー、前にも言ったろ、オレはお前が好きなんだって」

「そうだな、聞いた」

「今更親兄弟の許可なんざいらねぇけど、自慢してやりてぇんだよ。てめーらなんかよりずっとオレを愛してくれる元兄貴の、現恋人だって!」

「こいびと……スパーダ、顔が赤いぞ」


ジークの指摘どおり、スパーダは台詞の最中にもどんどんと顔を赤くしていった
うるせェ、という一応までの反論にも、全然迫力が籠らない

スパーダは、合計して三回ほどジークに裏切られたにも関わらず
やはり彼女を好いているのだと実感した
どうしようもない馬鹿だと自分でも思っているが、好きなものは仕方がない

(見かけによらず意外と優しい所、たまに見せてくれる微笑、何だかんだいって仲間内には甘い所、オレをオレとして見てくれる所)

改めて好きな所を数えてみれば案外多い事に気がついた
自分でも驚いていると、くいくいと襟を軽く引かれる感覚
何故袖ではなく襟を引くのかと不思議に思いながらもそちら側へ顔を向ければ


柔らかい何かが一瞬だけ合わさって
ちゅ、と小さな音が弾けた


極めつけは、目前で紡がれたスパーダにとって何よりも嬉しく感じる言葉




「好きだ、スパーダ」




ジークはきっと恋人という概念など持ち合わせていないだろう
気がつけばスパーダは、ここが毛嫌いしている自宅の前だという事も忘れてジークを抱きしめた
二度目の口付けも相手から奪われたのは不本意だったが、そんなものは後からどうにでもなるのだ

相手が知らなくてもこれから知っていけばいい、彼女がどうかは知らないが、スパーダはもう二度と離すつもりなどないのだから


「ああもう、マジで大好きだ。オレ、もしお前が男でもきっと好きになってたぜ!」

「それはそれで問題があるだろう……それよりスパーダ、苦しい」

「っと、悪ィ」


ぱっと手放したスパーダは、嬉しさのあまりか頬が緩みきっている
もうこのまま勢いで親のまえに連れていきたいと思い始めていたのだが
ジークがあまりに哀しげな笑みで空を仰ぐものだから、舞い上がっていた思考が停止してしまった



「…全ては、元お前の兄の弔いが終わってからだ。駄目元だが……手伝ってくれないか?」


「チッ……お前の頼みなら。その代わり、終わったらオレと一緒に来いよな」



スパーダは自分のものよりも二回りほど小さな手を握って、黎明の塔への一歩を進める
道中、「早くしないとあいつらが腐ってしまう」、さらりと言ってのけたジークに恐ろしさを感じ、歩く速さを上げたりして
思いの外早い段階で、スパーダとジークの旅は始まってしまった





旅はいつでも終える事ができる

だけどその手が繋がっている限り



――いや、離さない限り、きっと彼らの物語にENDと記されることはないのだろう
あの時に始まった物語を終わらせる事が出来るのは、彼ら自身だけなのだ






(さぁ、後に続け!)



to be continued...?
10.0408.
( Say good bye )


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