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言祝ぎを大地へ









マティウスは口と体中の傷口から血を撒き散らし
ルカ達を呪いでもするかのように血走った双眸で睨みつける
傍にはチトセが体を震わせて尚も寄り添った



「おのれェェエエ…この無念、また来世に持ち越してくれる!」


「勝手にしたら?いちいち付き合ってられないっての!」


息を切らして頬に付いた自身の血を拭ったイリアが、そう吐き捨てて二丁拳銃をホルスターへ戻した
既に抵抗する力が残っていない事を察し、ルカも剣を背の鞘に納めて大きく頷く


「イリアの言う通りだよ。もし、生まれ変わったのなら、その人生を楽しめばいい」


ルカの言葉に、マティウスは力なくかぶりを振って聞くまいとする


「黙れ…黙れ黙れ…黙…れ………」


段々と力を無くしていく声
涙混じりの声はついに聞こえなくなり、マティウスはゆっくり瞼を下ろす
支えを失ったようにどさりと体をぼろぼろの床に倒し、それから二度と動く事はなかった

傍らで、チトセが音もなく涙を流した


「アスラ様…」


もう聞こえていないと知りながら、それはルカではなくマティウスに向けたものだったのだろう
どことなく状況に覚えのあるジークは、はっとして槍を床に突き立て、笑う膝を叱咤しながら足を動かす



「よせチトセ、やめ―――…っ」



例えば、ルカ達の中、誰か一人でも怪我を負っていなければ
結果は違ったのかもしれない



  グ サ



やはり覚えのある光景だった
ただし今回は誰も止めることができなかった

チトセは、本来マティウスを貫くはずだった短剣で、己の胸を貫いた
赤い民族衣装を更に赤い液体が浸食し、黒に近い色へと変えていく
あと少しで届き制止できるはずだったジークの手は行き場を無くし、だらりと垂れ下がる
体を支える事が出来なくなり、チトセはマティウスに覆い被さる形で倒れた

それに合わせて、ジークも膝をつく
止める事のできなかった無能な手に、赤に濡れたチトセの手が触れた



「私も、共に参ります……来世こそ、来世こそ…必ず…」

「チトセ……お前…っ」

「ごめんね、ジークさん…でもこれが、私の幸せ、なの……」


それを最期の言葉として、チトセも息絶えた

もし、ジークを誰も止める事が出来なかったとしたら
きっとルカ達が、今の自分と同じ気持ちを味わったのだろうと、今更ながらにジークは悟る
「バカな女」、とイリアが涙声で呟いて
だけどそれがチトセの幸せだと言うのならば、どんな展開になっても止められなかったのかもしれない











「んで、創世力ってのはどうなったんだ?」


スパーダが言い、丁度傍にいたジークが振り向いて台座の方を指差す
これじゃないのかと曖昧ながらも示したそれは、変わらず光を放つ創世力そのものだ
ルカが吸い寄せられるように創世力の前へ歩み寄り、それを見たリカルドは静かに問い掛けた


「それで…、お前はこれをどうするつもりだ?」


「欲しがる人に高値で売り付けるんもエエんちゃう?」

「えーっと、エル?」


軽い調子での発言を視線と声音でアンジュに咎められ
エルマーナは「そんな怖い声出さんといてや」と肩を竦める
アンジュの隣でイリアがやれやれといった様子で呆れた笑いを浮かべた


「封印するか?そういうのもアリだと思うぜ」

「そうだな。それもいいだろうが…」

「方法がない、だろう。それにまたいつか悪用しようと企む馬鹿が現れるかもしれないぞ」


スパーダが提案しリカルドが唸るも、ジークが尤もな意見を述べて二人は考えを改めた
その最中にもルカは一人沈黙し考えていたらしく

やがて、小さく頷いて「決めたよ」と一言
後に続く言葉は、迷いのないそれだった


「天と地、二つに隔ててしまったから、世界は均衡を失った。だったら、元に戻すのがいいよ」

「ま、アスラも望んでた事だもんねぇ」

「ううん、アスラは関係ないよ。ただ、こうするのが一番だって、そう思ったんだ」


真っ直ぐな瞳は初めて会った時の気弱な少年と同一人物かと見紛うほど、自身に溢れていた
恐らくこの旅で誰もが成長して、だが一番成長したのはルカだろう
そんな時、アンジュがそっと言葉を紡いだ


「わたし思ったんだけど、『献身と信頼、その証を立てよ。さすれば我は振るわれん』…この言葉って、原始の巨人の願いだったんじゃないかな?」


「あぁ?願いって何だよ?」


きっと、それはオリフィエルの知識にアンジュの考えが織り交ぜられた解釈
よく理解できなかったスパーダが真っ先に疑問の声を上げ
アンジュは出来るだけ分かりやすく言葉を組み合わせ、説明していくよう心がけた


「巨人さんはね、寂しかったの。楽しく賑やかになるように世界をお創りになったのでしょ?」


皆が仲良しならば世界はより発展するという
純粋な願いが込められている、アンジュはそう言った

スパーダと同じく理解できていなかったエルマーナが、それで分かったのかなるほどと首を縦に振る


「ああ、それはエエなぁ。そう聞いたら、その原資の巨人、ちょとカワイなって来たわぁ」

「つまり…、ルカの願いは巨人の願い。これでは誰も異を唱えまいよ」


ふっと笑ってリカルドも首肯した
彼の言うとおり異を唱える者は誰もいない


「…じゃ、そろそろ、それ使って見せてよ」


どこかわくわくしたようなイリアが声を弾ませる
原始の巨人が寂しがって悲しんだりしない世界にするために
ルカは呟いて、イリアへと手を差し伸べた



「あら、あたしでいいの?また裏切っちゃうかもよ〜」



イリアは冗談交じりに言いながら、ルカの隣―――創世力の前へ歩み出る
最近ではよく見慣れたあのあくどい笑みからルカは目を逸らし、淡く頬を染めた


「もうっ、止してよっ!他に相応しい相手なんて、考えられないんだから」

「あ〜ら、遠回しな言い方っ!…ん〜、あんたらしいっちゃあ、あんたらしいけど」


ルカとイリアは創世力の上に手を置いた
温かな力が伝わって、心地よさを感じる
この温かさに勇気づけられてか、それとも先刻別れを告げたばかりのアスラに背を押されてか
ルカはほぼ勢いに任せて、喉元まで上がって来た言葉を吐き出してしまおうとした


「えーっと、イリア、思い切って言うけどさぁ…、ぼ、僕は君が…その……す、」


「えーっ?何ぃ?聞こえなーいっ!!」



創世力の光が増す

辺り一面は光で真っ白になった







――― 天地を一つに

     全てのものに祝福を!








その祝福は黎明の塔から地に降り注ぐ

アスラの叶えられなかった願いを、彼よりも遥かに非力だった少年、ルカが
今この瞬間、叶えようとしていた








(なぁスパーダ、あれが所謂…惚気、という奴なのか?)

(まぁ強ち間違っちゃいねぇよ。ケッ、何だかんだでお似合いだよなァ、あいつら)

(ふふ、そうねぇ。イリアも満更じゃない感じだし)

(成長したとは思うが、やはりあいつらもガキのままだな)

(アツアツやん。でもルカ兄ちゃんの奥手で苦労しそうやわぁ)



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